『首ざむらい 世にも快奇な江戸物語』
書籍情報:openBD
怪奇な中にユーモアが炸裂 綻びの中にも情が通う秀作
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
第九十九回オール讀物新人賞を受賞した「首ざむらい」を含む四作からなる作品集。
表題作は主人公・小平太が大坂夏の陣前夜、母から大坂にいる叔父を連れて帰ってきてくれと頼まれる事で幕があく。
小平太が渋っていると、今までは叔父と言ってきたが本当は父親だと明かされる。そして事情を知りたければ大坂に行って当人の口から直に聞けと言われるではないか。
これだけでも心中穏やかならざるものがあるが、小平太は道中で父の形見の刀を奪われるや、ひょんな事から生きている生首と道中を行く羽目になり、それどころではなくなってくる。この首、二言目には「お酒をちょうだい」と言って聞かず、怪奇な中にもユーモアが炸裂する。作品としてはかなり綻びが見える構成なのだが、その綻びの中から、友情や父子の情を越えてなお尊いものなど、諸々のテーマが浮かび上がってくる。破格の秀作と言えよう。
この他に、生き抜く勇気ではなく、死に向かうそれの哀しさを河童の伝説と絡めて描いた「よもぎの心」は、本書収録中の作品でもいちばんの出来映えを示している。伏線がサラリと回収されていく怪異譚の構成を取りながら、それが負の人生を歩んでしまった哀歌に転じていく様の見せ方が図抜けている。
つづく「孤蝶の夢」も一種の奇譚である。主人公である梛丸と孤蝶は、自分たちを折檻していた和尚が殺され、寺に火が付けられたのを機にこの地を逃れる。二人はそれぞれ新しい人生を歩むかにみえたが、果して和尚は誰に殺されたのか、梛丸と孤蝶の運命はどうなっていくのか、大胆な仕掛けが光る。
ラストの「ねこまた」は、主人公の猫矢又四郎、通称猫又さんをはじめ狸穴の魔力に当てられた人々の人間喜劇を笑いの内に描いた快作である。
未知数の魅力を持つ新人の登場だ。