【児童書】『メテオ 詩人が育てた動物の話』志村ふくみ文、土屋仁応絵
[レビュアー] 黒沢綾子
■芸術の永遠性
森のなかの小さな家で、いままさに若い詩人が天に召されようとしている。「今夜たいせつなお式がある」と聞いた庭師たちは、庭を松葉で埋め尽くして準備する。やがて森の端に月がのぼり始めると人々が集まってきて、ターバンを巻いたひとりの老人が、美しい動物(いきもの)メテオにまつわる神秘的な予言をする。
「今夜、メテオがあの方をお迎えにみえるのですよ」
今年白寿を迎える染織家で紬(つむぎ)織の重要無形文化財保持者(人間国宝)、志村ふくみさんが書いた童話に、彫刻家の土屋仁応(よしまさ)さんが絵を描き下ろした。
土屋さんは森の動物や想像上の動物を、木で彫ることで知られる。土屋さんの木彫を見た夜、志村さんが不思議な夢にいざなわれたことが、2人で絵本を作るきっかけだったという。
メテオは昔、若い詩人のおじいさんにあたる老詩人が、「ことば」を糧に育て上げた動物だった。仏教の「来迎(らいごう)」を思わせるが、同時に芸術の永遠性をたたえた物語でもある。(求龍堂・2750円)
評・黒沢綾子