【児童書】『メテオ 詩人が育てた動物の話』志村ふくみ文、土屋仁応絵

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【児童書】『メテオ 詩人が育てた動物の話』志村ふくみ文、土屋仁応絵

[レビュアー] 黒沢綾子

■芸術の永遠性

森のなかの小さな家で、いままさに若い詩人が天に召されようとしている。「今夜たいせつなお式がある」と聞いた庭師たちは、庭を松葉で埋め尽くして準備する。やがて森の端に月がのぼり始めると人々が集まってきて、ターバンを巻いたひとりの老人が、美しい動物(いきもの)メテオにまつわる神秘的な予言をする。

「今夜、メテオがあの方をお迎えにみえるのですよ」

今年白寿を迎える染織家で紬(つむぎ)織の重要無形文化財保持者(人間国宝)、志村ふくみさんが書いた童話に、彫刻家の土屋仁応(よしまさ)さんが絵を描き下ろした。

土屋さんは森の動物や想像上の動物を、木で彫ることで知られる。土屋さんの木彫を見た夜、志村さんが不思議な夢にいざなわれたことが、2人で絵本を作るきっかけだったという。

メテオは昔、若い詩人のおじいさんにあたる老詩人が、「ことば」を糧に育て上げた動物だった。仏教の「来迎(らいごう)」を思わせるが、同時に芸術の永遠性をたたえた物語でもある。(求龍堂・2750円)

評・黒沢綾子

産経新聞
2023年2月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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