【聞きたい。】橋本愛喜さん『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路』

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やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます

『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』

著者
橋本 愛喜 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784046062574
発売日
2023/06/29
価格
1,595円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【聞きたい。】橋本愛喜さん『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路』

[レビュアー] 黒沢綾子

■「2024年問題」の本質知って

物流・運送の「2024年問題」が迫っている。来年4月、働き方改革のためトラックドライバーの残業規制が強化されると人手不足が加速し、野村総合研究所の試算では令和12(2030)年に全国の荷物の35%が運べなくなるという。

「世間的に『荷物が運べなくなる問題』になっちゃってますが、そもそも働き方改革は労働環境の改善のためじゃないですか。なのに、トラックドライバーの心配をしている人が本当にいない」と嘆息する。

モノを運ぶ現場でいま何が起きているのか。全国津々浦々を走るトラックドライバーの声を聞き、物流・運送業界への取材を重ねてエッセーにまとめた。自身も大型自動車一種免許を取り、父親が営んでいた工場で金型を運ぶドライバーとして日本各地、中長距離を走った経験を持つ。仕事の過酷さ、楽しさ両面を肌身で知っているのは大きい。

まず、24年問題に対する一般の理解不足を指摘する。「宅配が届きにくくなる問題」と狭く捉えられがちだが、実は日本で運ばれる荷物量のうち宅配は1割にも満たない。つまり、ほぼ企業間輸送の問題だ。

「ネットで買ったレトルトカレーが届かなくなる問題というより、作れなくなる問題」。カレー粉も牛肉もタマネギも、製造工場に運ぶのはトラック。住宅もスマートフォンも、私たちの便利な生活を支えるほぼ全てのモノが「一度はトラックに乗っている」。

トラック輸送は〝国の血液〟なのに、運送業界の多重下請け構造や人手不足など、労働環境は厳しさを増すばかり。高速道路のトラックの最高速度引き上げをはじめ、「現場を知らない官僚や有識者によりドライバーの安全を脅かすような議論も進んでいる」と訴える。

「世間の無関心が最大の問題。物流について広く考えてもらうきっかけになれば」(KADOKAWA・1595円)

黒沢綾子(文化部)

   ◇

はしもと・あいき ライター。大阪府生まれ。元工場経営者・トラックドライバー。日本語教師、渡米を経て現在は日本の社会問題、労働問題について取材している。著書に『トラックドライバーにも言わせて』。

産経新聞
2023年9月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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