『[図説]真珠の文化誌』
- 著者
- フィオナ・リンゼイ・シェン [著]/甲斐理恵子 [訳]
- 出版社
- 原書房
- ISBN
- 9784562072934
- 発売日
- 2023/06/21
- 価格
- 3,960円(税込)
書籍情報:openBD
『図説 真珠の文化誌』フィオナ・リンゼイ・シェン著、甲斐理恵子訳 熱狂と悲しみの歴史
[レビュアー] 黒沢綾子
日本で真珠といえば、アコヤガイの中で育まれる完璧な白い球体が思い浮かぶが、もとより真珠の世界は広い。見渡すと、豪州などで養殖される大粒の白蝶(しろちょう)真珠やタヒチの黒蝶真珠、個性的な形のバロック真珠も人気が高く、色も多彩。生産量ベースでは、中国の淡水養殖真珠が市場を席巻している。
希少な天然真珠は古代から世界中で珍重され、採取や取引などを巡って人々の熱狂や悲劇を巻き起こした。本書は数千年におよぶ真珠と人間のドラマを、豊富なカラー図版とともにひもといていく。
きらびやかなダイヤモンドやルビーなどと一線を画し、真珠は聖母マリアの純潔を象徴し、時には悲しみと関連付けられてきた。宝飾品として価値のある天然真珠は千に一つほどしかない。美しい真珠を集めるために無数の真珠貝の命が奪われ、歴史を振り返れば無理やり海に投げ込まれた奴隷潜水夫らの犠牲もあった。そもそも古代神話で真珠は人魚や天使、女神の涙から生まれたとされる。
古代から海洋真珠を世界に供給したのは主にペルシャ湾であり、大航海時代以降はカリブ海の真珠も欧州経由で市場に流れ込んだ。やがてインドのボンベイ(現ムンバイ)が真珠取引の中心地となる。真珠人気が最高潮に達した20世紀初頭、「真珠王」と称される御木本幸吉が真円真珠の養殖に成功する。天然と見分けのつかない養殖真珠が、真珠を巡る世界のパワーバランスにどれほど衝撃を与えたのか。主に西洋からの目線で語られる歴史が新鮮で面白い。
他にもエジプトの女王クレオパトラが酢に溶かして飲みほした真珠、ハリウッド大女優エリザベス・テイラーが手にした伝説の真珠、そして17世紀オランダの画家フェルメールが描いた真珠の耳飾りまで、悲喜こもごもの物語が本書にはちりばめられている。
真珠は人間の指紋と同様、同じものは二つとなく、それを育んだ時間と場所が刻まれていると知ると、より尊く思えてくる。(原書房・3960円)
評・黒沢綾子(文化部)