『ワグネル プーチンの秘密軍隊』
- 著者
- マラート・ガビドゥリン [著]/小泉悠 [監修]
- 出版社
- 東京堂出版
- ISBN
- 9784490210781
- 発売日
- 2023/01/26
- 価格
- 3,520円(税込)
書籍情報:openBD
秘密のベールに包まれた傭兵部隊 支援も名誉もない“命の値段“は?
[レビュアー] 篠原知存(ライター)
秘密のベールに包まれた“幽霊”部隊「ワグネル」(※画像はイメージ)
拷問や虐殺といった戦争犯罪を糾弾されるなど、悪名を轟かせるロシアの民間軍事会社「ワグネル」。ロシア政府と連携しているのに、公式には存在しないことになっている幽霊のような傭兵部隊だ。秘密のベールに包まれた軍事行動の一端を、元兵士が克明に描き出している。
著者は、士官学校を出てロシア軍空挺部隊に10年間所属。刑務所暮らしを経て2015年に48歳(!)でワグネルの一員に。19年に退社するまでに、ウクライナ東部での騒乱やシリア内戦に送り込まれて軍事行動に従事した。綴られるのは主にシリアでの戦闘記録だ。
執筆の動機はウクライナ侵攻だったという。「兄弟国を相手にした戦争で兵士たちを犠牲にしている」とクレムリンを非難。ロシアの大義はごまかしだ、とも語る。ただし、ワグネルの傭兵としての自らの行動については、誇らしげに〈われわれは英雄ではない。単に与えられた仕事をして報酬を得ているだけなのだ〉とも記している。
理解し難い認識の乖離も含めて、当事者によるリアルな証言として受け止めた。驚かされるのは武力紛争地での活動の再現度。敵味方の動きを戦況や戦術を交えて正確に説明できるのは元指揮官ならではだろう。臨場感があって、ついつい「俺」と一緒に修羅場をくぐっているような気分になってくる。
影の軍隊という存在のあいまいさは、戦場では時にマイナス要素にもなるらしい。支援は期待できず、装備はポンコツで弾薬も不足。命がけで勝ち取った戦果が無能な友軍に台無しにされて辛酸を嘗める。栄誉を与えられるのは正規軍のみ。派遣労働の悲哀に似たものがある。
なぜワグネルに身を投じる人々がいるのか、命がけのヒロイズム、善悪とは何か、名誉とは何か……あれこれ考えさせられた。気になる給与は戦闘参加時で15万ルーブル(約27万円)だったそうだ。