【児童書】『ふしぎ草子』富安陽子作、山村浩二絵

レビュー

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【児童書】『ふしぎ草子』富安陽子作、山村浩二絵

[レビュアー] 横山由紀子

■味わいのある怪談

怪しく不思議な8つの話を集めた短編集。巻頭を飾る「ピアノ」は、小学校が舞台。そのシチュエーションにゾクッとする。

ポロン。しばらくするとまたポロン。児童たちが下校した夕刻の校舎。教室のどこかから、切れぎれのピアノの音が響いてくる。一本指で、でたらめに鍵盤をたたいているような不気味な音だ。不審に思った女性教員が各教室を見て回り、たどり着いた古い音楽室で見たものとは…。

このほか、児童書の営業の仕事をしている男性が車で町はずれにある小さなこども園に本を届けに行ったところ、山奥に迷い込む「猫谷」。ツタに覆われたとんがり屋根の古い洋館での出来事を描いた「魔女の家」。満開の藤棚(ふじだな)の下で起きる不思議な物語「藤棚」などを収録している。

新美南吉児童文学賞、産経児童出版文化賞など多数の受賞歴がある児童文学作家の富安陽子が、かねて温めていた話だという。

怖いけれど味わいのある怪談に、思わず引き込まれてしまう。(小学館・1320円)

評・横山由紀子(文化部)

産経新聞
2023年5月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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