国際情勢の緊張感と多彩なアクションの連続技が熱い
[レビュアー] 若林踏(書評家)
シリアスな物語背景と、テンポの良い活劇描写が程良くブレンドされた警察小説だ。
題名にある「香港警察東京分室」、正式名称「特殊共助係」は警視庁に設立された特殊部署である。従前の捜査共助では対応しきれない国際犯罪の解決を名目に、日本警察と香港警察の間で覚書を締結し新設されたもので、桜田門にある本庁ではなく神田神保町の古書店街に拠点を置く。日本と香港、それぞれの警察から五人ずつ警官が配属された「東京分室」が初めて扱う案件は、キャサリン・ユーという元大学教授の身柄を確保することである。キャサリン・ユーは二〇二一年に香港で起きた大規模な民主デモを扇動し、日本へ逃亡する際に助手を殺害した容疑で香港警察が追っていた人物だ。
表面上は共助という形を取っている「分室」だが、その内実は友好的とは言い難い関係にある。香港側は殺人犯逮捕以外にも何か思惑があって動いているのではないかと、日本側が常に猜疑心を持ちながら香港の刑事達に接しているからだ。香港では実際に二〇一九年から二〇二〇年にかけてデモが起こったが本書はそうした現実の空気を反映させつつ、国家間の緊張状態を見事に映し出して見せる。
その合間を縫って物語を盛り上げるのが、多彩なアクション描写だ。作者はここぞという絶妙なタイミングで活劇場面を入れ込むのだが、いずれも各刑事の個性に合った見せ場を用意している。銃撃戦から素手での格闘に至るまでバリエーションが多く、戦闘描写が続いても決して飽きることが無い。
文字通り命を懸けたアクションの連続のさなかに、それぞれの刑事達が抱く正義への思いが浮かび上がっている点も良い。彼らが何を背負い、何の為に戦うのかが描かれる瞬間が最大の山場だろう。熱い心を、強い意思で包んだ人間達の姿がここにある。