「男性は大きい胸が好き」というのは思い込み? だけど悩むAカップの女性の心理とは 小説家・佐々木愛が語る

インタビュー

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ここにあるはずだったんだけど

『ここにあるはずだったんだけど』

著者
佐々木, 愛, 1986-
出版社
双葉社
ISBN
9784575246063
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

ちっちゃい胸のせいで人生に自信を持てない──。コンプレックスを抱えた人が自己肯定できるようになる、優しいおっぱい小説『ここにあるはずだったんだけど』佐々木愛インタビュー

[文] 双葉社


しょうがないと理解しつつも悩んでしまう(画像はイメージ)

「ブラ男の告白」「EあるいはF」「授乳室荒らしの夢」「胸は育たない」の4篇を収録した小説『ここにあるはずだったんだけど』(双葉社)が刊行された。

 コンプレックスを抱えているがために、自分にも社会にも馴染めない人は、どうしたら前向きに生きられるのだろうか──。本書の4つの物語は、いずれも女性特有の胸の悩みから始まり、そのわだかまりをそっと溶かしつつ背中を優しくさすってくれるような短篇集だ。

 著者の佐々木愛氏に創作秘話から読みどころまで話を聞いた。

■「ぼっち」だった大学時代、「授乳室でお昼ごはん食べたいな~」と思って断念した思い出が作品設定につながっています。今考えても、やはり断念してよかったです。

──本作のテーマは「小胸」です。4つの物語の主人公は全員Aカップ。小胸の自分に自信が持てず、それがコンプレックスとなって、なかなか人生の一歩を踏み出せません。最初に佐々木さんが書いた作品は「胸は育たない」でしたが、まずはこのテーマを書こうと思ったきっかけを教えて下さい。

佐々木愛(以下=佐々木):自分で選べるわけではないのに、女性の魅力のひとつとして数えられることが多い「胸の大きさ」に興味がありました。“男の人は大きい胸が好き”というイメージが刷り込まれやすい世の中で、特に若い時期、自分の胸の大小で悩むことは、ある意味しょうがないのではと思います。しょうがないと理解しつつも、悩んでいる自分自身に「外見をこんなに気にしてしまうなんて」「異性の目を気にし過ぎなのでは」と落ち込んでしまう方もいるのではと思っています……というか、私はそうでした。そういう悩みについて考えたくて書きました。
 また、胸の大きさが定まるのは、「胸は育たない」の登場人物たちのような高校時代かと思います。その時期の「私はこのサイズで生きていくことになるらしい……でも、もう少し大きくなるかもしれないし……」という気持ちの揺れを書きたいと思い、「胸は育たない」ができました。高校生のときの自分が読みたかったテーマでもあります。

──「EあるいはF」は推しの俳優と結婚するグラドルの胸のサイズに執着してしまう話です。そのグラドルのカップが本当はどちらなのかわからず、主人公は戸惑うばかり。どうして女性は胸の大きさに悩むのだと思いますか? 作中で主人公の姉が「たかが胸だよ、たかが乳、たかが脂肪」と言うが、主人公は受け入れられません。

佐々木:「EあるいはF」は、某お笑い芸人さんが結婚された際、お相手のWikipediaに胸のカップが「〇あるいは〇」と書かれていたのが妙に引っ掛かり、そこから連想して書きました。やはり、胸の大小が性的な魅力のひとつとして刷り込まれているから、そういうワードが気になるし、大きさに悩むのかなと思います。

──「ブラ氏の告白」には担当編集(男性)も感動した傑作です。《「夜、トレンチコートの中にブラジャーを着けた男が出る」というブラ氏の噂を聞きました。もしかして、それは夫かもしれないし、私かもしれない》という衝撃の文章から始まるのですが、まさか夫婦の老後の生き方にまで話が展開するとは思いませんでした。「人生で子どもを産まなかった選択肢があったかも」と思う主人公に対して、夫も真摯に向き合います。佐々木さん自身、人生の岐路を感じたことはありますか?

佐々木:私にも「この料理を作る時間がなければもっと小説を書けているのでは」「この洗濯物を畳んでいる時間がなければもしかして小説が書けるんでは」など、ふと自分の力不足を生活のせいにしてしまうときがあります。その気持ちと折り合いをつけたいと思っている今も、「岐路」と言えるかもしれません。『ブラ氏の告白』は、そこから生まれた小説とも言えます。

──「授乳室荒らしの夢」は怪談めいた物語でもあり、4作の中でもっとも重い話です。この世界に居場所のない20代の独身女性が自分にもっとも馴染みのない場所=授乳室を巡ることで、世界に適応していこうとします。近年はデパートや公共施設など授乳室が増えてきていますが、この「母親と赤ちゃんの聖域」を荒らすという発想はどこからきたのでしょうか?

佐々木:私は大学時代、一緒に昼食をとる友人もいない、いわゆる「ぼっち」だったのですが、誰も使ってなさそうな授乳室が近くにあり、「あそこでゆっくりお昼ごはん食べたいな~」と思っていました。しかし、誰かに見つかったらかなり気味悪がられるだろう……と思って断念した思い出が、この設定につながっています。今考えても、やはり断念してよかったです。

──最後にうかがいます。「EあるいはF」で主人公は豊胸手術をするかどうか悩んでいますが、「ここに大きな胸があったら」、彼女の人生はどう変わるのだと思いますか?

佐々木:この主人公の場合は、とくに変わらないのではと思います。主人公は、大きくしたい理由を「好きな人の結婚を心から祝福できるようになるため」としていますが、冷静になってはたから見れば、「あなたが祝福できない原因は胸の大きさじゃないぞ!」と思うので。冷静になれずに迷走した主人公が選んだ結末を、ぜひ確認していただけたらうれしいです。

 ***

佐々木 愛(ささき・あい)
1986年生まれ。秋田県出身。青山学院大学卒。「ひどい句点」で2016年にオール讀物新人賞を受賞。19年、同作を収録した『プルースト効果の実験と結果』でデビュー。他の著書に『料理なんて愛なんて』がある。

COLORFUL
2023年3月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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