豪華客船大爆破…西成のおっちゃんとカップ酒を飲みながら思いついたアクション小説とは? 作者に執筆の裏話を聞いた

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ドリフター2 対消滅

『ドリフター2 対消滅』

著者
梶永正史 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575527056
発売日
2023/11/15
価格
770円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

90年代ハリウッド映画に比肩するド迫力のアクション小説。クルーズ船ツアーの説明会取材から生まれた『タイタニック』超えの豪華客船大爆破──『ドリフター2 対消滅』著者・梶永正史インタビュー

[文] 双葉社


梶永正史氏

 警察小説を執筆してきた作家の梶永正史さんが、元自衛官の豊川亮平を主人公にしたアクション小説『ドリフター』(双葉社)の続編を刊行した。

 前作では、国家を揺るがす中国の秘密組織の策謀を知った豊川が、東京でのテロを防いだが、続編の『ドリフター2 対消滅』では、大阪を舞台に関空爆破テロを防ぐため、またしてもたった一人で中国の秘密組織に立ち向かう。

 孤立無援の主人公が日本を守るために立ち上がり、戦闘を繰り広げるハリウッド映画ばりの大迫力のアクション小説の構想は、西成のおっちゃんと飲んでいるときに思いついたという。

 続編に込めた思いや取材の裏話を作者の梶永さんに聞いた。

撮影=中惠美子

■テレビで見た西成のおっちゃんに興味を持ってすぐに取材へ!

──不死身のダークヒーロー・豊川亮平が帰ってきました。前作『ドリフター』では孤軍奮闘、ほぼ一人で「浸透計画」の東京テロを防ぎました。今作が2作目となりますが、豊川という無敵の主人公を著者としてどう見ていますか?

梶永正史(以下=梶永):豊川は卓越した戦闘能力の持ち主ですが、完全無欠というわけではありません。当初、彼は自分の能力を復讐のために使いましたが、いまの彼を突き動かしているものは、守るものの存在です。つまり、情に流されてしまうがゆえに、ピンチにも陥ります。ヒーローとしては不器用な男ではありますが、そんな豊川を著者としてもハラハラしながら応援しています。

──前作は東京でしたが、本作は大阪が舞台。東京スカイツリー展望台上での決闘は名シーンでした。今作はどうして大阪を舞台にしたのでしょうか?

梶永:きっかけはテレビで西成(あいりん地区)のドキュメンタリー番組を見たことでした。そこで暮らす人たちの生き様に興味を持ち、すぐに現地取材のために宿を取り、数日を過ごしました。西成のおっちゃんたちと昼間から三角公園でカップ酒を飲みながら話をしているうちに、「一見、浮世離れしているように見えるこの西成が、巨大な陰謀の激震地になったらおもしろそうだな……」と思い、『ドリフター2』の舞台にしようと決めました。ただ、プロットを作る際、まっさきに書き始めたのは豊川とこの西成のおっちゃんたちのことで、これが楽しくて肝心の陰謀を何にするかを固めるまでには少々時間がかかってしまいました。

──今作では東京テロを凌駕する浸透計画の企み「セクター7」が発覚します。大阪の政党を乗っ取って関西圏を牛耳るという驚愕の計画ですが、実に用意周到に事が進んでいます。実際に地域政党に外国の工作員が這入り込んでいたら……と思うと末恐ろしい話ですが、あながちあり得ない話でもなさそうです。この着想はどこから得たのですか?

梶永:外国人投票権の緩和をめぐるニュースを見た際、反対派の方が「安易に許してしまうと、日本ではなくなってしまう」と話していたのが印象に残りました。また、大阪はフィリピンに匹敵する経済規模を持っていると言われていますが、府政を担っているのは自民党ではありません。その独自性を見ていて浸透計画が狙いそうだな……と妄想しました(苦笑)。

■タイタニック的な豪華客船で最後は派手に爆発!?


梶永正史氏

──読みどころはなんといっても最終決戦の舞台となる豪華客船「クリスタル・ホライゾン号」です。映画『タイタニック』のような豪華な舞台で、『スピード2』なみの心理戦とド迫力アクションが繰り広げられる。銃撃戦あり、剣戟あり、爆破ありと、前作を超えるアクションとサービスには大満足でした。

梶永:ありがとうございます! 書いていても楽しくて、ついついやりすぎてしまうこともあったのですが、夢中で観ていた80~90年代のハリウッド映画のような、問答無用のアクションの面白さを、これでもかと詰め込みました。取材を兼ねて豪華客船で船旅ができればよかったのですが、お金も時間もなかったので、クルーズ船ツアーの説明会に参加して雰囲気をつかんできました。また北海道に行く用事があったのですが、あえてカーフェリーを利用してイメージを膨らませました。豊川になりきって船内をウロウロとしていたので、かなり怪しかったかもしれません。

──サブタイトルは「対消滅」です。自衛隊時代に因縁のある最強ライバルが登場して豊川が大ピンチ。やはりアクションにライバルは絶対必要ですが、見事な極悪キャラでした。ライバルを描くにあたり、何か意識したことはありますか?

梶永:殺人マシーンのような絶対的な敵と豊川。まともにぶつかれば「対消滅」してしまいそうな互角の力を持っているふたり。勝敗を分ける決定的なものがあるとしたら、それはなんなのか……という点を意識しました。豊川はダークヒーローで、善人というわけではありません。そのため、両者の力の差は善悪から生まれるものではないといえます。背負っている過去や、守りたいもの、そういったことが豊川の強さに影響を与えていると思っています。

──もうひとつ、気になるのは死んだ恋人の姉である詰田朱梨です。彼女とのラブロマンスはあるのか、ないのか? 今作で関係に進展はあるのかが気になります!

梶永:二人の関係についてはいくつかの展開を考えていますが、いずれしても茨の道です(笑)。豊川は恋人のことが忘れられていませんし、彼女の死に責任を感じています。また破天荒な印象の朱梨も実は妹思いですので、その心情はかなり複雑です。今後、二人がどんな選択をするのか、どうか見守ってやってください。

──浸透計画の目論みは今作で一段落。とはいえ、まだまだ豊川の活躍を見たいところなのですが、今後の構想はありますか?

梶永:浸透計画は人知れず日本全国に勢力を広げており、虎視眈々と水面下で日本占領の時を狙っています。その芽を摘むために、豊川にはまだまだ頑張ってもらうつもりでいます。浸透計画の視点であちこち歩き回り、「次はここだ!」というのは決めています。今度はどの街で大暴れするのか……どうぞお楽しみに!

 ***

梶永正史(かじなが・まさし)プロフィール
1969年山口県生まれ。2014年『警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官』で第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。著書に「郷間彩香」シリーズ、『組織犯罪対策課 白鷹雨音』『銃の啼き声 潔癖刑事・田島慎吾』『ウミドリ 空の海上保安官』などがある。

COLORFUL
2023年11月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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