『こうやって、考える。』
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知の巨人・外山滋比古さんに学ぶ、こころに効く「大人の思考術」
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
過去にも『こうやって、考える。』(PHP文庫)を筆頭とする諸作をご紹介したことがありますが、2020年7月に逝去された外山滋比古さんは、“知の巨人”として名高いお茶の水女子大学名誉教授、文学博士、評論家、エッセイスト。
今回の新刊『学校では教えない逆転の発想法 おとなの思考』(外山滋比古 著、リベラル文庫)は、そんな外山さんによる2015年の著作『大人の思想』を改題/再構成して文庫化したもの。タイトルからもわかるように、テーマは“おとなの思考”です。
“おとなの思考”は五十年くらいしないと定まらない。なんとなくそんな風に考えてきたから、四十年ではまだ短い。しかし、三十年よりは長い。
そんな風に考えて、この本を世に送ることにした。この間、いくらかでも進歩したところがあるような気がして、Part1に新稿を入れた。(「あとがき」より)
このように書かれているPart1「おとなの思考」のなかから、きょうは「ことばとこころ」に焦点を当ててみたいと思います。
忘れることは頭をよくすること
このごろ軽いノイローゼ気味人間がふえているーー。そう指摘する外山さんはその原因を、「いろいろなことを頭に入れすぎるからだ」としています。知識を詰め込まなければならない学生だけの話ではなく、大人もまた、以前にくらべて情報が多すぎるのだと。
どんどんものが入ってきたら、他方でどんどん整理しないといけない。つまり「忘れる」必要がある。ところが、多くの人間は忘れ方を知らない。覚えることは知っているが、忘れることは考えない。それで、頭の中がフン詰まりみたいになるというわけだ。(72ページより)
人間は忘れるようにできているもの。その証拠にひと晩寝ると、余計なものは忘れ、朝は頭がさっぱり、スッキリするのではないでしょうか。つまり普通は、夜の睡眠だけでさっぱり忘れることができるわけです。
ところが、頭を使う人や、細かいことが気になってしまう性格の人はとくに、夜寝るだけでは“忘れ方が足りない”状態になりがち。外山さんのことばを借りるなら、「ゴミがたまったように頭が重くなる」のです。
そのため自然の忘却に頼るだけではなく、努力して忘れることが必要になってきます。そこで、お酒や、あるいはスポーツなどに頼ることになるということのよう。ちなみに忘れるためには、汗を流すことが極めて有効だそう。
気分をよくするためばかりではなく、頭をよくするにも忘れることが必要だ。頭をさっぱりしておかないと知識欲もわかない。(73ページより)
おなかがいっぱいだと、目の前においしいものがあっても食べたい気分にはならないもの。それと同じだということです。(72ページより)
人からほめてもらうことは心の薬
私たちにとって本当の幸福とはなんでしょうか? もちろん、お金も必要でしょう。住むところもいりますし、おいしい食べ物もほしいはず。しかし、それだけでは生きがいと幸福は生まれないのも事実です。
心の薬がなくてはいけないのである。何かというと、人からほめてもらうことだ。人をほめること、これがいまの世の中でいちばん欠けている。悪いところだけを問題にしいい気になっている。ほめるというのは教育の基本でもある。叱ってばかりいては決して伸びない。(76ページより)
これは、多くのビジネス書に書かれている「部下はほめて育てろ」というような文言にもつながる考え方ではないでしょうか?
人間関係でも、トラブルが起きる原因は、ちょっとした陰口だったりするもの。しかし、逆のケースもあるそう。陰でその人のことをほめると、やがてそれが当人に伝わり、次はその人が、自分をほめた人のことをほめるようになるわけです。
かくして“ほめことばのキャッチボール”が始まり、お互いに好きになってくる。どこにでも嫌な人や苦手な相手はいるものですが、そういう人に対してもほめる心を失わずにいれば、嫌な人間でなくなることもあるのです。(74ページより)
ことばは不老長寿、美容の妙薬
赤ちゃんが生まれて、三十カ月もすると、すっかり人間らしくなるが、それはことばを習うからだ。ことばこそ心を育てる栄養である。
ところが大人になると、もうあまりことばを覚える努力をしなくても生きていかれる。ことばの刺激がすくなくなるのだが、それとともに心の老化が始まる。(78ページより)
そして年をとるか、とらないかは、心の緊張があるかないかによるそうです。たしかに同じ年齢の人でも、張り詰めた生活をしている人はいつまでも若々しいもの。では、そういう生活の条件が欠けているなかで若さを保つにはどうしたらいいのでしょうか?
いちばん簡単なのは、新しいことばを毎日すこしずつ覚えること。急がずに少しずつ勉強していれば、だんだん「童心」が戻ってくるというのです。そしてその童心が、「若さをもたらすわけです。(79ページより)
ことばは不老長寿、美容の妙薬というわけである。さらに、気がついてみたら頭もいくらかよく働くようになっているはずである。(76ページより)
なるほど、ことばを意識するようにすれば、感性も研ぎ澄まされていくかもしれません。(78ページより)
いつものように、外山さんのことばはシンプルにして説得力抜群。ぱらぱらとページをめくってみれば、役立つことばに出会えることでしょう。
Source: リベラル文庫