『校庭の迷える大人たち』
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大人だって悩むんです
[レビュアー] 大石大(作家)
十五年前、僕が学校事務職員として働き始めた初日の職員会議でのことだった。
あるベテランの男性教員が露骨に眠そうな顔をし始めた。大丈夫だろうかと思って見ていると、彼はうつむいたままぴくりとも動かなくなり、夢の世界へ旅立ってしまった。
先生でも会議中に寝るものなのか! と驚いた瞬間だった。
子どものころ、先生はつねに毅然としていて、誤ったことはしない人たちなのだと思っていた。だけど、多くの教員と接しているうちに、彼らもときには間違ったことをしたり、弱みを見せたりする、ふつうの人間なんだと知った。言うことを聞かない子どもや理不尽な要求を突きつけてくる保護者に翻弄され、居酒屋で愚痴を言ったり、校舎の隅でこっそり涙を流したりしながらも、子どもたちのために日々懸命に頑張っている。子どもの前での毅然とした様子は、精一杯努力した上でようやく見せることのできる姿だったのだ。
悩んでいるのは教員だけではなかった。
ある子どもがとんでもない過ちを犯し、大問題になったことがあった。学校に呼び出された保護者は、見るからに憔悴し切った表情を浮かべていた。だが、数カ月後に行われた学校行事に、その親子は心から楽しそうに参加していた。彼らがその問題をどう乗り越えたのかは知らないけれど、親子に笑顔が戻っているのを見てほっと胸をなで下ろした。
学校で学んだり、思い悩んだりするのは子どもだけではない。教職員や保護者といった大人たちも、子どもと同じように苦しい思いを味わい、人間として成長していく。学校は、子どもだけではなく、大人が成長する場でもあったのだ。
本書は、教員、校長、事務職員、保護者、PTA委員と、それぞれの立場で学校に関わる五人の大人たちが、学校内で起こる奇妙な現象に巻き込まれる短編集となっている。ストーリーの行方を追いつつ、彼ら大人たちが成長していく姿を味わっていただけるとうれしい。