<書評>『ものまね鳥を殺すのは アラバマ物語[新訳版]』ハーパー・リー 著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

ものまね鳥を殺すのは

『ものまね鳥を殺すのは』

著者
ハーパー・リー [著]/上岡 伸雄 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784152102508
発売日
2023/06/20
価格
3,960円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『ものまね鳥を殺すのは アラバマ物語[新訳版]』ハーパー・リー 著

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

◆大人の世界の矛盾と歪み

 1930年代、アメリカ南部のアラバマ州メイコムという架空の町を舞台にした『アラバマ物語』。本書はこの名作の新訳にあたる。物語は、もうすぐ6歳になるお転婆(てんば)少女のスカウトと、その四つ年上の兄ジェムを中心にした、いかにも子供らしい空想といたずらとやんちゃに彩られた夏の日々の描写から滑り出す。トーンが一変するのは、白人娘をレイプした嫌疑をかけられた黒人男性の弁護を、2人の父アティカスが担当することになって以降だ。

 問答無用の黒人差別社会にあって、フェアの精神を貫くアティカス。その姿を通して、大人の世界の矛盾と歪(ひず)み、共同体の絆と狭量を知る子供たち。善と正義を体現するアティカスは、しかし、拳を振り上げて持論を押しつけるのではなく、相手の立場を思いやった上で正しさを語るタイプだ。100年近く前の物語だけれど、今も変わらず必要なのは彼のような人なのだと痛切に思う。新訳されたことが大きな意味を持つエバーグリーン(不朽)の名作なのである。

(上岡伸雄訳 早川書房・3960円)

1926~2016年。米の作家。1960年刊の本書でピュリツァー賞。

◆もう一冊

『さあ、見張りを立てよ』ハーパー・リー著、上岡伸雄訳(早川書房)。本書の続編。

中日新聞 東京新聞
2023年9月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク