低山からヒマラヤまで登山史に残る名文を編んだ一冊

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山は輝いていた

『山は輝いていた』

著者
神長 幹雄 [編集]
出版社
新潮社
ジャンル
歴史・地理/旅行
ISBN
9784101046112
発売日
2023/07/28
価格
737円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

低山からヒマラヤまで登山史に残る名文を編んだ一冊

[レビュアー] 森山憲一(山岳ライター)

 いま、山好きの人たちの間で、話題になっている本がある。『山は輝いていた 登る表現者たち十三人の断章』(神長幹雄・編、新潮文庫)だ。

 高尾山から凍てつくヒマラヤの岩壁までさまざまな山に挑んだ、登山家たちの名文13作品が専門誌『山と溪谷』の元編集長・神長幹雄氏によってセレクトされている。

 山を好んだ作家や登山家の名文だけでなく、山で命を落とした若き登山家の幻の遺稿もあり、山の魅力と魔力が感じられる一冊だ。また、臨場感たっぷりの編者・神長氏の解説もある。

 7月末に出版されるや、あっという間に重版となった本書の魅力を、山岳ライターでかつて『山と溪谷』編集部に在籍していたこともある森山憲一氏がさぐった。

 ***

 本書は、さまざまな立場で山に関わってきた13人のアンソロジー。その13編それぞれに、編者の神長幹雄氏が解説を加えるかたちになっている。

 13人は、『花の百名山』の田中澄江にはじまり、作家の立松和平や串田孫一、登山家の長谷川恒男や山野井泰史など、とにかくバラエティに富んでいる。

 旅としての登山を好む者から、山に自然を求める者、そして山を挑戦の場としてとらえる者。登山とは多様性に富んだものであり、多くの嗜好・立場の人を惹きつける懐の深さをもっている。本書の13選を眺め、それぞれにまったく異なる味わいの文章を読むことで、登山が本来もっている広がりや多様性を感じることができるだろう。

 同時に、こうした人選になったことは神長さんらしいなとも私は思った。

 神長さんは『山と溪谷』の編集長を務めた人物。『山と溪谷』は、高山植物からヒマラヤ登山まで登山のオールジャンルを扱うことをテーマとしてきた雑誌。そこで仕事をしていると、いやでもあらゆるジャンルの人・山に接することになり、山を見る目が広がっていく。これはほかではなかなか得られない財産なのである。

 神長さんの下で編集稼業を始めた私は、年を経るごとにそこで得た財産の価値を感じている。

山と溪谷社
2023年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

山と溪谷社

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