『ブックオフから考える 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』谷頭和希著(青弓社)

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ブックオフから考える

『ブックオフから考える』

著者
谷頭 和希 [著]
出版社
青弓社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784787235206
発売日
2023/06/02
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『ブックオフから考える 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』谷頭和希著(青弓社)

[レビュアー] 牧野邦昭(経済学者・慶応大教授)

意外な本 出会える空間

 「ブックオフが無ければ自分はここにいなかった」と、読書委員会で本書を取り上げた時に思わず口にした。金銭的余裕の無かった大学院生時代、安く専門書や新書を買えるブックオフは本当にありがたい存在だった。一方で批判されていた諸問題(著者に印税が入らないなど)も知っていたため、後ろめたい気分もあった。

 本書はこれまで流通業界や出版業界といった業界目線で語られることの多かったブックオフを消費者目線、特にブックオフで本を選び、買うことの社会的・文化的意義から捉えなおし、現代日本を考える好著である。現在、郊外や地方ではブックオフが紙の本を手に取って買える数少ない場所となっている。もちろん今ではオンライン書店や電子書籍も充実しているが、インターネットでは自分の好むコンテンツのみを需要して異なる価値観が見えなくなるフィルターバブルの問題がある。一方、ブックオフでは周辺住民から買い取られた本はその日のうちに店頭に出されるため、意図せず(なんとなく)多種多様な本が並ぶ物理的空間となり、予期せぬ本との出会いが発生する。本書ではブックオフを使った遊び(三千円以内で面白い本を購入する)やブックオフの本やCDから刺激を受けた文化人の登場などを紹介し、今やブックオフが一種の公共性を備え新たな文化を生み出すインフラの一つとなっている、と指摘している。

 現在のブックオフは本以外の様々な商品も取り扱う総合リユース店となっているが、一方で大手出版社が株主になり、また書評サイト「ブクログ」を運営するなど、新刊書籍と古書の垣根を越えて出版文化を担う動きもみられる。読者の皆さんも、近くのブックオフに行けば、意外な本との出会いを体験できるだろう。そして気に入った著者やジャンルが見つかったら、ぜひその著者やジャンルの本を紙の新刊で購入し、文化のインフラとなる物理的空間を今後も維持できるようにしてほしい。

読売新聞
2023年9月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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