『「経済成長」の起源』
- 著者
- マーク・コヤマ [著]/ジャレド・ルービン [著]/秋山 勝 [訳]
- 出版社
- 草思社
- ジャンル
- 歴史・地理/外国歴史
- ISBN
- 9784794226693
- 発売日
- 2023/08/28
- 価格
- 3,740円(税込)
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『「経済成長」の起源 豊かな国、停滞する国、貧しい国』マーク・コヤマ/ジャレド・ルービン著
[レビュアー] 牧野邦昭(経済学者・慶応大教授)
豊かになる要因 多角的に
日本経済の低成長が語られるようになって久しいが、そもそも「経済成長」とは何を意味し、またどのように起きるのだろうか。もちろん理論経済学や経済史の研究者はその答えを求めて長年研究してきたが、決定的な答えは未(いま)だに出ていない。本書は経済成長を一つの要因で説明するよくある本ではなく、様々な学説を紹介しながら、複雑な条件がどのように組み合わされば経済成長が実現し、生活は豊かになるのかを分析している。
経済成長について、本書ではシンプルに生活が豊かになることとしている。貧富の格差は存在するにせよ世界は歴史上かつてないほど豊かになり、一層豊かになりつつある(少なくとも、生計を営めるぎりぎりの状態から世界全体が遠ざかっている)という事実を確認し、それをもたらした要因は何かを探っている。
経済成長をもたらしやすい地理的条件や制度は確かに存在する。また宗教など文化的側面も経済成長に影響する。社会学者のヴェーバーによる、プロテスタンティズムが資本主義の精神を生み出したという有名な学説については、その教義よりも、プロテスタントが教育に力を入れたこと、またプロテスタント諸国では国王は教会の権威に頼れないため議会を開催して支持を得る必要があり、そのために経済成長志向の政策が行われたことの方が重要だというのも興味深い。
では特に北西ヨーロッパ、特にイギリスで最初に現代に通じる持続的な経済成長(産業革命)が発生したのはなぜなのか。イギリスは経済成長に必要な前提条件の大半が当時そろっていたため、という結論は身もふたもないが、ある意味では逆に含蓄がある。経済成長の特効薬は存在せず、その国の歴史的文脈と現実に応じた地道な政策が必要なわけだが、他方で「経済成長とは経済的な価値を生み出すことにつきる」という指摘や、大国間の平和が続くことが経済成長の各国への波及に有利であるなど、現代への示唆も多い。経済成長の複雑さを理解したうえで日本と世界をより豊かにするために読まれるべき本である。秋山勝訳。(草思社、3740円)