強烈な個性の名探偵と振り回されるワトスン役 最新作でも受難は続く

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強烈な個性の名探偵と振り回されるワトスン役 最新作でも受難は続く

[レビュアー] 若林踏(書評家)

 アンソニー・ホロヴィッツの〈ホーソーン&ホロヴィッツ〉シリーズは、探偵に振り回されるワトスン役の受難を描いた連作として読める作品だ。元刑事の諮問探偵ダニエル・ホーソーンは鋭い推理力を持ちながらも傲慢で不遜な人物で、おまけに私生活を一切明かそうとしない。自分の活躍を本にして欲しいとホーソーンから依頼された“わたし”ことアンソニー・ホロヴィッツにも本心を打ち明ける事はなく、信頼を築くどころかホーソーンに関わったため、とんでもない目に遭う事もしばしば。

 そんな不運なワトスンであるホロヴィッツが更なる窮地に陥るのが第四作『ナイフをひねれば』(山田蘭訳)だ。彼が脚本を務めた舞台劇を酷評した評論家が刺殺される。凶器がホロヴィッツの所持していた短剣だったために、彼は逮捕されてしまう。

 厳然たるフェアプレイのもと、大胆に手掛かりを配置してもそれに全く気付かせない技巧は本作でも健在。それと同じくらい読者の注目を引くのは、語り手ホロヴィッツの災難だろう。虚構の中とはいえ、作者自身をそのまま投影させた語り手によくもまあ、こんな酷い仕打ちが出来るもんだと唖然としてしまう。

 名探偵のおかげで大変な目に遭うワトスン役といえば、麻耶雄嵩の〈メルカトル鮎〉シリーズに登場する美袋三条だ。美袋の友人であるメルカトル鮎は“銘”探偵を自称する推理力の持ち主だが、ときに探偵らしからぬ非道ぶりを見せて、彼に付き合う美袋は毎回とんでもない羽目に。『メルカトルと美袋のための殺人』(集英社文庫)『メルカトルかく語りき』(講談社文庫)での美袋には涙を禁じ得ない。

 ワトスン役への毒舌ぶりを披露する名探偵といえば、東川篤哉『謎解きはディナーのあとで』(小学館文庫)の執事・影山だ。大企業総帥の一人娘である刑事・宝生麗子に仕える執事で、麗子が家に持ち帰る難事件をたちまち解いてしまう安楽椅子型の名探偵。いっけん真面目だが時おり歯に衣着せぬ言動で麗子を怒らせる。主従が逆転した探偵コンビという発想が愉快だ。

新潮社 週刊新潮
2023年10月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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