『民間企業からの震災復興 関東大震災を経済視点で読みなおす』木村昌人著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

民間企業からの震災復興

『民間企業からの震災復興』

著者
木村 昌人 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784480075727
発売日
2023/08/07
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『民間企業からの震災復興 関東大震災を経済視点で読みなおす』木村昌人著

[レビュアー] 牧野邦昭(経済学者・慶応大教授)

「私利」追求の功罪を分析

 関東大震災の発生から今年で百年になる。震災の被害や社会に与えた影響については様々な形で語られてきたが、経済についてはどうだったのだろうか。本書は関東大震災を経済、特に企業や地方の側面から分析している。

 震災により大きな被害を受けた東京の復興にいち早く立ち上がったのが、「日本資本主義の父」渋沢栄一であった。当時八三歳の渋沢は財界のリーダーとして海外を含む人脈を駆使し、当面の被災者の救済と東京の復興という中長期の問題とに同時に取り組んだ。その一方、私利私欲に走る現代人への戒めとして震災が起きたとする渋沢の「天譴(てんけん)論」は物議をかもす。

 震災の発生に対し、関東以外の企業や財界(商業会議所)も盛んに支援を行った。一方で横浜が壊滅したことで生糸輸出港として神戸が台頭し横浜と攻防を繰り広げたり、震災に伴う保険の支払いをめぐり関東と関西の保険会社が対立したり、各地域は東京の復興に予算が取られて地域振興が疎(おろそ)かになることを警戒するなど、地域間の利害対立も表面化した。一方、商品を安定して供給するなどして信用を得て関東に進出を果たした関西企業も多かった。また鉄道が壊滅して自動車の利便性が明らかになり、復興資材も米国から多く供給されたことから、米国企業の進出も盛んになり米国文化も震災後に広がる。東京では被害を逆手にとって旧式設備を一新した中小企業が発展し経済復興を成し遂げていく。渋沢の批判した私利私欲はむしろ震災を機にむき出しになるが、ある意味ではそれが東京の復興と社会の変化を引き起こしていく。

 まだ東京一極集中が進んでおらず若い段階だった日本経済にとって震災の被害は意外と小さく、経済成長の要因ともなったが、現代の日本で首都直下地震が起きればどうなるだろうか。本書では震災直後に検討された兵庫県加古川への遷都案が再評価されている。震災百年を機に、災害への備えを改めて考える必要がある。(ちくま新書、1100円)

読売新聞
2023年10月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク