<書評>『いつものラジオ リスナーに聞いた16の話』村上謙三久(けんさく) 著

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いつものラジオ

『いつものラジオ』

著者
村上謙三久 [著]
出版社
本の雑誌社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784860114817
発売日
2023/08/04
価格
2,090円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『いつものラジオ リスナーに聞いた16の話』村上謙三久(けんさく) 著

[レビュアー] 石井彰(放送作家)

◆いつも近くにあったから

 ラジオには熱心なリスナーがいる。でも、その顔が見えてこない。どんな人がどんなふうにラジオを聴いているのか?

 本書はくっきりとリスナー像を描き出す。著者は、プロレスやラジオの本を作りながら、リスナーへのインタビューを続けている。出演者やスタッフは取り上げられても「リスナーが取り上げられることは極端に少ない」ので、ならばリスナーの話をと作られたのが本書。

 病院でラジオを聴きながら出産した女性。「死にたいと思っていたときにラジオに救われた」という高校生の5年後。「聴くなら“命懸け”です」と語る62歳の男性会社員。世代や性別、職種が違う16人のリスナーの話には共感するものもあれば、首をかしげる話もある。ただ皆に共通するのは「いつも近くにラジオがあった」ことだ。

 話の合間に置かれた著者コラムの書きぶりに、好ましいラジオ愛を感じる。ラジオとともに歳(とし)を重ねていく人がいる限り、きっとラジオはなくならない。読み終わるのがせつなくなる好著だった。

(本の雑誌社・2090円)

1978年生まれ。編集者・ライター。著書『深夜のラジオっ子』。

◆もう1冊

『向井と裏方』 TOKYO FM「向井と裏方」制作班編(河出書房新社)

中日新聞 東京新聞
2023年10月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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