<書評>『いつものラジオ リスナーに聞いた16の話』村上謙三久(けんさく) 著
[レビュアー] 石井彰(放送作家)
◆いつも近くにあったから
ラジオには熱心なリスナーがいる。でも、その顔が見えてこない。どんな人がどんなふうにラジオを聴いているのか?
本書はくっきりとリスナー像を描き出す。著者は、プロレスやラジオの本を作りながら、リスナーへのインタビューを続けている。出演者やスタッフは取り上げられても「リスナーが取り上げられることは極端に少ない」ので、ならばリスナーの話をと作られたのが本書。
病院でラジオを聴きながら出産した女性。「死にたいと思っていたときにラジオに救われた」という高校生の5年後。「聴くなら“命懸け”です」と語る62歳の男性会社員。世代や性別、職種が違う16人のリスナーの話には共感するものもあれば、首をかしげる話もある。ただ皆に共通するのは「いつも近くにラジオがあった」ことだ。
話の合間に置かれた著者コラムの書きぶりに、好ましいラジオ愛を感じる。ラジオとともに歳(とし)を重ねていく人がいる限り、きっとラジオはなくならない。読み終わるのがせつなくなる好著だった。
(本の雑誌社・2090円)
1978年生まれ。編集者・ライター。著書『深夜のラジオっ子』。
◆もう1冊
『向井と裏方』 TOKYO FM「向井と裏方」制作班編(河出書房新社)