『ラジオ報道の現場から 声を上げる、声を届ける』
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ラジオ報道の現場から 声を上げる、声を届ける 澤田大樹著
[レビュアー] 石井彰(放送作家)
◆物事の本質 生きた言葉で
金曜夜十時はTBSラジオ「アシタノカレッジ」を聴く。パーソナリティーは編集者でライターの武田砂鉄。なかでも十一時台、同局で「たったひとりの専業記者」の澤田大樹とニュースを語る「ニュースエトセトラ」は必聴だ。
澤田が書いた本書は、ラジオ報道の現場で考えたことを、わかりやすい言葉で伝えている。ラジオの語り口と同じく「難しい言葉をほぐして」読みやすい。これがラジオ記者の強み。ラジオに映像がないのは欠点ではなく利点だ。ラジオは言葉で伝えるから物事の本質をつかみ、生きた言葉で語らなければならない。
それは記者の主戦場=記者会見でも同じだ。本書がつまびらかにしたように、五輪・パラ大会組織委員会の森喜朗(よしろう)会長(当時)の「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」発言をめぐる、十九分間の応酬でも発揮された。
澤田が森に問う。
「(自分の発言を)オリンピック精神に反するという話もされてましたけれども、そういった方が組織委員会の会長をされることは適任なんでしょうか」
森は答えず「さぁ? あなたはどう思いますか」と逆質問する。澤田は「私は適任ではないと思う」と即答した。
痛快だった。澤田の名前は多くの人々に刻まれた。彼はあたりまえのことを尋ねただけだ。彼が目立ったのは、通常の記者会見に緊張感がなく、なれあいに見えるからだ。
根本的な疑問をほとんど投げかけない、記者会見の弱点を澤田は指摘する。「各記者は目の前の取材に集中するあまり(略)俯瞰(ふかん)した視点が持てなくなり、本質的な質問ができなくなっているのでは」
ラジオは少人数のため、彼は国会だけでなくすべてを担当する。この横断的な視点が物事の本質を察知させる。
本書を読んで気づくのは「自分の振る舞いを常にリスナーに“見られている”と感じている」ことだ。
澤田が培ってきた「パーソナルな視点と、そこから一歩引いたジャーナリストとしての客観性」がラジオ番組と本書の魅力につながっている。
(亜紀書房・1650円)
1983年生まれ。TBSラジオ記者。政府、国会、省庁はじめ幅広く取材中。
◆もう1冊
武田砂鉄責任編集『TBSラジオ公式読本』(リトルモア)。元気なワケを。