『MOCT 「ソ連」を伝えたモスクワ放送の日本人』
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<書評>『MOCT(モスト) 「ソ連」を伝えたモスクワ放送の日本人』青島顕(けん) 著
[レビュアー] 石井彰(放送作家)
◆冷戦下 ラジオが架け橋だった
誰もがラジオに夢中だった。チューニング中に突然、外国の放送が飛び込んでくる。海外旅行が夢だった時代、ラジオは想像力の翼となり異国へ旅ができた。
本書は、冷戦下にモスクワ放送の日本語放送を作った日本人を追いかけた記録で、開高健ノンフィクション賞受賞作。
書名のMOCTは、ロシア語で「橋」「架け橋」のこと。著者は高校時代にモスクワ放送と出会い、アナウンサーが楽しそうに語るロシア語講座を知る。
月日は流れ40年。あの放送は誰が作っていたのか? 記者特有の嗅覚と探求心で、放送に携わった人々を訪ね歩く。日本人のアナウンサー、日本から亡命した有名女優、そして当時のリスナーたち。
当時は(今も)厳しい検閲下で西側ロックは御法度(ごはっと)。日本人アナが持ち込んだビートルズ「バック・イン・ザ・U.S.S.R.」をかける。シベリア送りも覚悟したが、担当課長の好意と日本から激励の手紙が届きお咎(とが)めなし。冷戦下の寒国で、ラジオ制作者たちの熱い思いが時空を超えた物語となり、いま届いた。
(集英社・1980円)
1966年生まれ。毎日新聞記者。共著『徹底検証 安倍政治』。
◆もう一冊
『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』小泉悠著(PHP研究所)