『今日も寄席に行きたくなって』
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南沢奈央×蝶花楼桃花・対談「明日も寄席が楽しくて」(前編)
[文] 新潮社
寄席にしかない「一体感」
桃花 ご本にはその二人会のこともたくさん書いていただいていました。
南沢 まさか定席の寄席の高座に上がってトリを取ることになるとは思ってなくて、わなわな震えていましたが、でも本当に貴重な経験でした。
桃花 南沢さんの文章を読んで、「こんなに緊張してたんだ」と意外でしたよ。まるで、そんな風に見えなかった。何より、ちゃんとお客さんに噺を語りかけている形がありました。ふだん私たちが緊張すると、自分だけでバアーッと喋ってしまう傾向がありますが、あの時の南亭市にゃお(南沢さんの高座名)さんにはそういう素振りが全くなかった。寄席デビューでお客さんと意識して対話ができるというのはすごいと思いました。
南沢 すごい褒め上手(笑)。確かに、寄席という独特の空間では、お客さんとコミュニケーションをとらないと絶対だめだとは思いました。お芝居をやる劇場にはない一体感ですよね。
桃花 また、池袋演芸場という空間が特にね。
南沢 特に、なんですね(笑)。
桃花 あれが浅草演芸ホールさんだとまた違ったと思いますね。池袋は高座も板の間で、お客さんも他の寄席より近いですもんね。
南沢 でも、ああやってリアクションがすぐに届くから、キャッチボールしやすいというか。
桃花 それ、我々が何十年かけて目指すことですから。初っ端からできるのが本当にすごいです。
南沢 お芝居はあまり正面切って演技しないので、あんなにお客さんの顔を見たのは初めてでした。高座の落語家さんはどのあたりに視線を定めていらっしゃるものですか?
桃花 池袋だと全員の顔が見えます(笑)。一人ひとりが何をしているかも全部わかりますよ。メモした、あくびした、バナナ剥いた、とか全部。
南沢 バナナは目立ちそう(笑)。
桃花 バナナでは驚かないけど、後ろの方の席でパスタ食べてる人もいて。
南沢 えーっ、それは度胸あるかも。
桃花 めっちゃパスタをくるくるしてて、「え、何パスタなの?」って思いながら落語やる時もあるくらい、全員見えてます(笑)。
南沢 実は、そういうお客さんのあれこれ――退屈そうな顔とか(笑)――が見えるとダメになるかもと思って、私が高座に上がる時は、客席の照明を少し落としてもらったんです。
桃花 それでも相当見えたでしょう?
南沢 見えました。だからいつもの照明だと、すべて見えるだろうな、この環境で落語をやられてる方々は本当にすごいなあとあらためて思いました。