『すぐに使える! おもしろい人の「ちょい足し」トーク&雑談術』
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人前で緊張してしまう人も、自然と克服できるトークのプロがつかう「切り替えテクニック」
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
ご存知の方も多いかと思いますが、『すぐに使える! おもしろい人の「ちょい足し」トーク&雑談術 お笑い芸人・話し方講師の二刀流が教える 56の絶対ウケる法則』(桑山 元 著、日本実業出版社)の著者は、声優養成所を経て、社会風刺コント集団ザ・ニュースペーパーに19年間在籍していた人物。
2022年にニュースペーパーを退団してからは、お笑い芸人(俳優)と研修講師の二刀流として活動していらっしゃいます。
そんな経歴を聞く限り、いかにも話が得意そう。ところがかつては話し下手で、話題が豊富で話し上手な人に憧れを抱いていたのだといいます。もともと笑わせる才能に恵まれていたわけではないので、ザ・ニュースペーパー時代もかなりご苦労されたようです。
そこで、先輩のいろいろな舞台やDVDを参考にしながら分析を重ね、その結果を言語化してストックしていたのだとか。
そんななかで身につけたのが、自分自身と自分に与えられた役割の「演じ分け」や、「フリートークの切り返し」、笑わせるために「視点のズラし方」、フリからオチまでの構成、舞台上での緊張感とのつきあい方などなど。
そして、そんな“ほんのちょっとのコツ”を「ちょい足し」することが、自分と同じような状況で悩んでいる人の役に立つかもしれないという思いから、本書を書いたのだといいます。
イチから全く新しいものを作ろうと思ったら、そんな偉業は天才しかできません。でも、私たち凡人にも打てる手はあります。それが『ちょい足し』です。
今ある既存のものに『ちょい足し』。人はそれを改善と呼びます。今の自分の才能や経験値に『ちょい足し』。人はそれを成長と呼びます。(「はじめに」より)
著者自身、『ちょい足し』テクニックを積極的に使ってコミュニケーションをとったのだそう。その結果、農林水産省や東京証券取引所から仕事を依頼されるまでになったというのですから、なかなか利用価値は高そうです。
きょうは第2章「お笑い芸人的【緊張感とのうまい付き合い方】のなかから2つのトピックスを抜き出してみることにしましょう。
緊張を解きほぐすとき「深呼吸はダメダメ?」
かなりの「緊張しい」で、深呼吸やストレッチなどを試してみたもののうまくいかなかったという著者は、やがてひとつの結論に行き着いたようです。
「緊張しない方法」「や「緊張を解く方法」を考えるのではなく、「人前で話すときは緊張している状態がデフォルト(通常)」だと考えるようにしたというのです。
例えば、私が舞台で田中という役を演じるとします。その時に緊張してしまったら、その田中を「いつも緊張している人」という設定にしてしまうのです。桑山が緊張しているのではなく、桑山は「緊張しやすい性格の田中という役を演じている」のです。(38ページより)
発表者である自分が緊張しているのではなく、“緊張している発表者”を演じているのだと思えばいいということ。自分が緊張していることを知られれば恥ずかしくもなりますが、自分ではない「演じている役の人」の緊張が知られたのであれば、さほどのダメージを受けずにすむわけです。(36ページより)
「見られている」と思うと緊張する
動物園の動物たちが体調を崩す原因の上位には、“見られている”ストレスがあるのだそうです。動物でさえそうなら、人間が見られて緊張するのは当たり前だともいえるかもしれません。
では、どうすれば緊張せずにすむのか?
この問いに対して著者は、「見られている」側から「見ている」側になればいいのだと答えています。「見られている」と意識してしまうから緊張するのだということ。
そもそも「緊張している」は感じ方、すなわち感情ですから、瞬時に変化させることは簡単ではないかもしれません。しかし、それでも方法はあるそう。そのことに関連して著者は、講師としての師匠だという大谷由里子さんの講演ネタを引き合いに出しています。
「それでは、皆さん。隣の人と目を合わせて下さい。次に、その目を合わせた人と恋愛して下さい。…できませんよね? 今、何が起こったかというと、目を合わせるというのは行動。これはすぐできましたね? でも、恋愛というのは感情。これはすぐにはできませんよね。つまり感情は変えられないけど、行動は変えられるんです」(45ページより)
これを。先ほどの話にあてはめてみましょう。「緊張している」のは“感情”であり、「見る」というのは“行動”です。つまり“見よう”と思えば、意志の力で「見る」という行動は起こせるということ。その際のコツは、見ることに集中すること。漫然と見るのではなく、注意深く観察するというイメージであるわけです。
目の前の作業に没頭すれば、余計な感情(緊張)が入り込む余地は限りなくゼロに近づきます。
「お葬式の理論」ですね。葬儀の際に何故あれほどまでにやることが細々と決められているのかといえば、しきたり(タスク)をたくさん設定することによって悲しみから一時でも逃れようとする、先人の知恵なんです。(46ページより)
なお、自然に観察できるようになるためには、話しかける人を1人にすることが大切だといいます。たった1人だけに話しかけるのでは、他の人に伝わらないのではないかと思いたくもなりますが、むしろ逆だというのです。
1人に話しかけるのは「会話」と同じです。大勢を前に話すより緊張もしないし、聞き手の表情や態度がわかります。聞き手の様子がわかると、自然に間が作れますし、伝えようという熱意が湧き上がります。
「この人にわかってもらおう」と思えば、必然的にその人の様子を観察せざるを得なくなります。つまり聞き手の観察に自然と集中できるのです。観察に集中することができれば、他のノイズ(緊張)が入り込みにくくなるのです。(47〜48ページより)
これは、スピーチやプレゼン以外のことにもあてはまると著者はいいます。(44ページより)
著者は自分のことを「相変わらずおっちょこちょいで忘れん坊」だと評していますが、『ちょい足し』テクニックを身につけてからは、そんな自分のことを愛せるようになったのだといいます。
でも当然ながらそれは、著者だけにあてはまることではないはず。だからこそ本書を活用しながら、著者のように楽しく話すスキルを身につけたいものです。
Source: 日本実業出版社