『対訳 厄除け詩集』井伏鱒二著/ウィリアム・I・エリオット/西原克政訳

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対訳 厄除け詩集

『対訳 厄除け詩集』

著者
井伏 鱒二 [著]/ウィリアム・I・エリオット [訳]/西原 克政 [訳]
出版社
田畑書店
ジャンル
文学/日本文学詩歌
ISBN
9784803804188
発売日
2023/07/10
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『対訳 厄除け詩集』井伏鱒二著/ウィリアム・I・エリオット/西原克政訳

[レビュアー] 金子拓(歴史学者・東京大教授)

 井伏鱒二の名著『厄除け詩集』の英語による対訳版であり、見開きの左右に原詩と英訳が並ぶ。

 『厄除け詩集』といえば、高適の五言絶句「田家春望」の訳詩の一節「アサガヤアタリデ大ザケノンダ」や、おなじく于武陵「勧酒」の「『サヨナラ』ダケガ人生ダ」が有名だ。英訳は前者が「so I barhop too much around the Asagaya district」、後者が「Life is nothing but saying good‐bye」となる。

 右の井伏の訳詩については、江戸時代の石見の俳人が、『唐詩選』の漢詩を農作業の時に唄(うた)う俗謡調に移した写本が元ネタになっていることが専門家により指摘されている。これらを紹介した高島俊男氏によれば、その写本を井伏の父が写したノートを目にして、さらに自分なりに作りかえたものが先の訳詩だという(『お言葉ですが…7』)。

 漢詩が俗謡となり、それが写されて、軽妙洒脱(しゃだつ)な詩篇(しへん)に翻案され、さらに英語へと移された。言語の壁を軽々と超えて広がる名句を味読したい。ところで「アサガヤ」を意訳するなら、アメリカではどの町がよいのだろうか。(田畑書店、1650円)

読売新聞
2023年11月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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