『世界の図書館を巡る』gestalten編

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『世界の図書館を巡る』gestalten編

[レビュアー] 井上正也(政治学者・慶応大教授)

 ページを繰ると息をのむような美しい空間が次々と現れる。宮殿、大聖堂、修道院、個人宅など様々な経緯を経て知を集積する場となり、現在では広く公開されている53の図書館が紹介されている。個性的な閲覧室は、これから学ぼうとする人々を等しく迎え入れ、温かく包み込んでくれる知の空間である。

 それぞれの図書館が持つ歴史も興味深い。写真のマリア・ラーハ修道院のイエズス会図書館が継承するモットーは「図書館なき修道院は武器を持たぬ砦(とりで)に同じ」だそうだ。この修道院という言葉を現代社会に置き換えてもよかろう。先人たちの積み重ねてきた知を軽んじる社会は、ポピュリズムの誘惑や権威主義国家の攻撃の前に脆弱(ぜいじゃく)である。

 古来、知識は力であり、時の権力に抗するための有力な手段であった。健全な民主主義社会を育んでいくためにも、われわれは開かれた知の空間を継承していかねばならない。ヤナガワ智予訳。(マール社、3960円)

読売新聞
2023年11月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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