『顔面放談』
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<書評>『顔面放談』姫野カオルコ 著
[レビュアー] 大塚ひかり(古典エッセイスト)
◆自虐交えた圧巻の観察眼
「顔面相似形」なる「週刊文春」のコーナーに20年以上投稿し、何度か採用されたこともあるほど、顔の造作にこだわりのある著者による、著名人の顔面に関する本である。佳子さまと昭和天皇が似ている、いかりや長介はモデル体型、世界一の美人は2人いる…発見の連続だ。
圧巻はたとえ。「…イジケ、融通のきかなさ、鬱積(うっせき)が、古尾谷(雅人)の魅力なのである。本人はこうした要素を、段ボールに入れて電信柱の下にそっと捨ててきたつもりなのに、家に帰ってふりかえると、クーンと鼻をならして付いてきている子犬のように、それらは、彼から剝(は)がせないのである」等の名文が満載。
両親から顔の悪口を注がれた「陰気なわが家」の思い出が時折顔を出すのも、自虐的なユーモアが漂う。顔に指摘しやすい、目につくかたちがないため学校でからかわれず、何かと前向きな気力を身に付けた「ように」著者には映る顔が「うらやましい」というのも、納得と共に涙が出た。著者の情報源は映画がメインゆえ、映画ガイドとしても楽しめる。
(集英社・1760円)
1958年生まれ。作家。『昭和の犬』で直木賞。
◆もう1冊
『整形美女』姫野カオルコ著(光文社文庫)。美とは、幸福とは何かを問う小説。