成長する人は最終評価を他者に委ねない。ブレない教え『易経』が教えてくれる大切なこと

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人を導く最強の教え『易経』

『人を導く最強の教え『易経』』

著者
小椋 浩一 [著]
出版社
日本実業出版社
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784534060334
発売日
2023/09/01
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

成長する人は最終評価を他者に委ねない。ブレない教え『易経』が教えてくれる大切なこと

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

『易経』は、今流行の成功法則に比べたら、非常識な考え方かもしれません。

しかし、紀元前からずっと語り続けられてきたノウハウです。

「時流に乗る者は時流により滅ぶ」という真理の裏で、三千年もの歴史の波を経て生き抜いた『易経』には、決してブレないものがあります。(「はじめに」より)

人を導く最強の教え『易経』 「人生の問題」が解決する64の法則』(小椋浩一 著、日本実業出版社)の著者はこう述べています。『易経』の教えをしっかり理解し、正しい手順で実践すれば、驚くべき結果が待っているのだとも。

著者の毎日も、『易経』を学ぶ前と後とではまったく違うものになったのだそうです。かつて担当した事業に失敗し、職場に居場所を失ってしまったとき、失意のなかで出会ったのが『易経』。そこから多くのことを学び、結果として救われることになったというのです。

そしていろいろなことを立てなおすにあたり、まず人生の本質を考え抜くところからはじめたのだといいます。ちなみにここでいう「本質を考え抜く」とは、「そもそもそれはなにか?」という問いに答えること。

人生は、決断の連続です。食べたものが身体をつくるのと同様に、われわれが行った決断が人生をつくります。人生を豊かなものにできるかどうかは、すべて自分の決断にかかっているわけです。AIがいくら発達しても、決断だけは人がやらねばなりません。

決断を間違えたくないから、できればあらかじめ未来を見とおしたい……。この切実な想いこそが、『易経』の原点です。

紀元前の中国の王たちが、その重い決断の責任を果たすために、持てる財力・権力を駆使してまとめさせたノウハウの集大成が『易経』なのです。今の私たちは幸運なことに、本としてその成果をそっくり手に入れることができます。(「はじめに」より)

第一章「成長する」のなかから、「火水未済」ということばを抜き出してみましょう。「未完成で終わるとき、反省で終えよ」の意味

「六四卦」(儒教の基本経典「易」のなかで用いられる図像)の最後にこれが位置づけられているというのです。ちなみに「卦」とは、易において吉凶を判断するもとになるもの。

「六四卦」の最後に、なぜ「未完成」を示す卦が置かれているのか?

著者によれば「未済(びせい)」は未完成という意味。この卦には、小ギツネの寓話が添えられているのだといいます。

小ギツネが、大きな川を渡ろうとした。

尾を濡らさないで渡るのは無理かもしれないと思ったが、自分なりに頑張って、

尾を水の上に立てたまま、ほとんど渡り切る寸前まで至った。

しかし、そこであやまって、大事な尾を水につけて濡らしてしまう。

尾が濡れたら重くなる。もう泳げない。渡るのは無理だ。

大きな川に挑もうとする意気込みは、良い。

でもそのためには、しっかり準備することが必要なのだ。

自分の至らない点を恥じ、深く反省しなければならない。(41ページより)

このように、小ギツネが未熟と準備不足のため河を渡ることに失敗する話から始まるわけです。

しかし、決して悲劇では終わらないのも事実。小ギツネの今後の成長が行間から伝わりますし、最終的には渡れることも予想されるからです。つまりその心が、「未」の文字に込められているということ。(40ページより)

「不」「無」「非」ではなく、「未」

もしこれが、「不済」や「無済」や「非済」だとしたらどうでしょう?

それらが意味するのは、「結局ダメだった……」というバッドエンド。濡れて重くなった尾のために、小ギツネが溺れ死ぬ話になっていたかもしれないということです。

しかし、これは「未済」。まだ終わっておらず、「未熟」を反省して次に進めばいい、成長せよ、という教訓でもあるのです。(41ページより)

「この人はまだ、これから成長し、成熟する可能性を持っている」というマインド

こうした、相手の可能性を信じ続けるマインドこそ、とくに人を導く立場の人間が持つべき「ブレない軸」ではないか? 著者はそう記しています。

英語の「education(教育)」の語源は、ラテン語の「引き出す」だという説もあるそう。

つまり、「相手の可能性を引き出す」という意味がそこには込められているわけです。なお、その具体化の意味で、もうひとつ重要な教訓がここにはあるのだといいます。(41ページより)

最後に反省で終わる

いうまでもなく「反省」とは、しっかりと自分の未熟な点を振り返り、改善すべく次の準備につなげること

現代の経営学においても効果的な学習方法として、内容(反省)を軸とした「経営学習サイクル」が提唱されているそうです。それは、アメリカの哲学者であるジョン・デューイによる次の考え方に基づいたもの。

私たちは経験から(直接)学ぶのではない。経験(experience)を内省(reflection)する時に学ぶのだ」(43ページより)

つまり、経験と学びとの間に「内省」というプロセスを介することで、学びの質が高められるということ。いいかえるなら、「反省が次の新たな成長につながる」ということなのです。

また、ここからは、なぜ「未完成」を示す卦が『易経』の最後に置かれているのかについての理由もうかがえます。

そもそも『易経』の陰陽も、「経験学習サイクル」と同じく「循環論」。陰と陽が相対しながら、永遠に変わり続けていくわけです。

そして「六四卦」もまた、この卦で終わらずまた最初の卦に戻り、永遠に循環していくもの。すなわち、それが「成長する」ということ。

「永遠の未完成、これ完成である」(宮沢賢治)(44ページより)

自分の未熟さに気づくことは、新たな希望でもあると著者。なにごとも努力すればきっと通じるわけで、その心構えがあれば、大きな河だって渡ることができる。それこそが、「火水未済」に込められたメッセージだということです。(42ページより)

幸せになるためには、まずその最終評価を他者に委ねないことが必要だと著者はいいます。そのために大切なのは、自問自答を習慣にすること。

そして『易経』は、そのために使える有効なツールであるようです。人生のさまざまな問題を乗り越えていくために、参考にしてみてはいかがでしょうか?

Source: 日本実業出版社

メディアジーン lifehacker
2023年11月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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