『縄文の断片(かけら)から見えてくる 修復家と人類学者が探る修復の迷宮』古谷嘉章、石原道知、堀江武史著

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縄文の断片から見えてくる

『縄文の断片から見えてくる』

著者
古谷 嘉章 [著]/石原 道知 [著]/堀江 武史 [著]
出版社
古小烏舎
ジャンル
社会科学/民族・風習
ISBN
9784910036045
発売日
2023/08/18
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『縄文の断片(かけら)から見えてくる 修復家と人類学者が探る修復の迷宮』古谷嘉章、石原道知、堀江武史著

[レビュアー] 金子拓(歴史学者・東京大教授)

土器修復 難しさ、奥深さ

 歴史とは、遺物や文献といった史料を通じ過去の人びとと対話する営みに支えられている、というごく当たり前のことを教えられた。

 本書は、文化人類学者の古谷氏、遺物の修復家で、縄文遺物をモチーフとした現代アート作品も手がける石原氏・堀江氏三者の共著である。

 わたしたちは、縄文遺物のどこに惹(ひ)かれるのだろうか。はるか昔に作られたという歴史性か、現代のモノにはない造形の美しさ、はたまたある種のかわいらしさなのだろうか。ほとんどの遺物(土器)は欠損した状態で出土する。修復家はそれに対し、気が遠くなるほどの入念な観察と分析に時間を費やしたうえで、きわめて丁寧かつ慎重に修復を施す。二人の修復家の文章では、修復の具体的方法や、それにあたっての修復者としての考え方が紹介されている。

 二人は修復した箇所が見た目で容易に判別できるような(また元に戻せるような)修復を理想としている。修復にあたり、それを作った縄文人の考え方に思いを馳(は)せる。縄文人は何かに似せてモノを作るのではなく、自らが属する集団の規範に基づき、素材に合わせて手を動かしているうちに、現代のわたしたちから見ればいまある何かに似たモノが「現れてくる」。堀江氏はこれを「向こう合わせ」と呼んでいる。

 観覧者は遺物の完形を求めがちである。このため展示物は修復した箇所がわからぬほど精巧に仕上げられる場合もあれば、出土品と見まがう完形の複製が作られる。しかし観(み)る者は複製では満足しない。なぜ複製では駄目なのか。古谷氏はその点に迫ろうとする。印象的なのは「旅の途中」という言葉だ。出土遺物にとって、修復というイベントは長い生涯の中での一齣(ひとこま)に過ぎない。観ている自分たちも遺物も、旅の途中でたまさか出会った同士である。自分たちは遺物のどの時点の姿を望むのだろう。なぜその時点の姿を欲するのか。遺物修復の難しさと奥深さが「旅の途中」の一語に込められている。(古小烏舎、2200円)

読売新聞
2023年11月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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