SNSでの「作品を介して繋がりたい」欲に対する違和感を反映──澤村伊智が自著を語る(後編)

インタビュー

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うるはしみにくし あなたのともだち

『うるはしみにくし あなたのともだち』

著者
澤村伊智 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575526813
発売日
2023/08/08
価格
880円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

SNSでの「作品を介して繋がりたい」欲に対する違和感を反映──ホラーの名手が初めて挑んだフーダニット小説『うるはしみにくし あなたのともだち』著者・澤村伊智インタビュー(後編)

[文] 双葉社

 映像化し話題となった『ぼぎわんが、来る』をはじめとし、数々のホラー小説や怪談を世に送り出している澤村伊智氏。今年、澤村氏による2作のミステリー作品『アウターQ 弱小webマガジンの事件簿』『うるはしみにくし あなたのともだち』が文庫で双葉社より刊行された。ホラーだけでない澤村作品の魅力を書評家・若林踏さんによるインタビューでお届けします。

取材・文=若林踏

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■雑誌連載時と単行本版では“犯人”が異なっているのです。

──次は、八月に文庫化された『うるはしみにくし あなたのともだち』についてお話を伺います。他人の容姿を変えてしまうおまじないを巡る学園ホラーであると同時に、犯人当ての趣向が物語の大きな柱となっている謎解き小説です。本書を書くきっかけは何だったのでしょうか?

澤村:双葉社の担当編集者から「“美醜”と“スクールカースト”を題材にした学園ものを書いてください」という依頼を受けたことが出発点です。そこから「人を醜くするおまじない」を思いついた後、「この設定を使えば犯人当てが書けるのではないか」という風に着想を広げていった結果、このような作品が出来上がりました。

──『アウターQ』の「飛ぶストーカーと叫ぶアイドル」でハウダニットの趣向に挑んだ事と同じく、澤村さんが真正面からフーダニット小説を書かれた事も意外でした。こうした犯人当てを書かれるのはご自身でも初めてだったのではないでしょうか?

澤村:確かにそうですね。デビュー前のアマチュア時代にも、ミステリーの趣向を持った小説を書いたことはありますが、その時もフーダニット小説は書いたことが無かった気がします。

──初めてフーダニット小説を書かれた上で苦労した点などはありますか?

澤村:手がかりや伏線の配置で悩むというより、最後に明かされる“犯人像”をどう描くかという点で非常に悩みました。実は雑誌連載時と単行本版では“犯人”が異なっているのですが、それは「このテーマで、この“犯人像”を描くのは違う気がする」と単行本化する際に改めて気付いたためです。

──本書では、ある登場人物たちが謎解きミステリーについて談義を行う場面があるのですが、マニアに対する皮肉な描写になっていてジャンルにどっぷり浸かった読者としては、身につまされる思いがしました。

澤村:あのシーンについては意外な反響があったんですよね。あるミステリー評論系サークルの同人誌に、あの場面から都市小説論まで繋げた評論が掲載されていたんです。私としては、単にマニアへの嫌みのつもりで書いただけのですが(笑)。でも、作者も想像が付かないような切り口から論を広げていくという意味において、作品の新たな読み方を提示する評論らしい評論だな、と思いました。

──澤村さんは、ジャンルの型や技巧に対して鋭い批評眼を持ちながら、ジャンルにおもねらない姿勢を取り続ける作家だな、と思っています。ジャンルを愛好するコミュニティと距離を取ろうとするスタンスが、そのまま滲み出たのが『うるはしみにくし』におけるミステリー談義の場面だったのではないかと。

澤村:ジャンルのコミュニティ、というより、作者が作品を媒介にして読者と繋がろうとする事への忌避感が強いのだと思います。SNSを眺めていると、たまに「この作家さんは小説を書きたいんじゃなくて、小説を使って読者と仲良くなりたいだけではないだろうか?」と思ってしまうような場面に出くわすことがあります。作品がただのコミュニケーションツールになっている気がするんですよ。同人活動や読者同士ならそれで何の問題もないですけど。そういう「作品を介して読者と繋がりたい」欲に対する違和感や拒否反応が、自分の書くものにそのまま反映されているのだと思います。

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澤村伊智(さわむら・いち)プロフィール
1979年、大阪府生まれ。東京都在住。2015年に「ぼぎわんが、来る」(受賞時タイトル「ぼぎわん」)で第22回ホラー小説大賞大賞を受賞しデビュー。2019年「学校は死の匂い」で、第72回日本推理作家協会賞短編部門受賞。『邪教の子』『怖ガラセ屋サン』『怪談小説という名の小説怪談』『ばくうどの悪夢』など著書多数。

2023年9月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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