『中国の論理』
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<書評>『物語 江南の歴史 もうひとつの中国史』岡本隆司 著
[レビュアー] 瀬川千秋(翻訳家)
◆多元性 鮮やかに描く
中国史は従来、黄河文明から中華人民共和国まで北を軸に語られた。これに対し、南を知らなければ中国は理解できないと説く著者がつづるのは、長江流域から沿海部までを含めた広義の江南の歴史だ。中原(ちゅうげん)(黄河中流域)とは自然も風俗も異なり、未開の地と見下される一方、宋が臨安(杭州)に再興した南宋はじめ、北方の戦乱から逃れてくる流民、左遷された文人たちの受け皿でもあった。絶えず南進してくる北と時に対立、時に融合しながら開拓を進め、産業を発展させ、独自の文化を育み、海外に存在感を示していく歩みをていねいにたどっている。
本書が面白いのは、そうした歴史のなかで、実利を重んじ、北の政権と絶妙な距離を置く江南気質が形成されていく過程を浮き彫りにしている点だ。朱子学や陽明学もその文脈で解き明かしている。
台湾に向け「一つの中国」と主張するが、大陸においても南北は必ずしも一枚岩ではない。長江の上流と下流でも立ち位置が違う。そんな中国の多元性を鮮やかに描き出している。
(中公新書・1100円)
1965年生まれ。京都府立大教授・近代アジア史。
◆もう1冊
『中国の論理』岡本隆司著(中公新書)