<書評>『物語 チベットの歴史 天空の仏教国の1400年』石濱裕美子 著

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<書評>『物語 チベットの歴史 天空の仏教国の1400年』石濱裕美子 著

[レビュアー] 瀬川千秋(翻訳家)

◆非暴力、理念で守る「国」

 中国はチベットについて「不可分の領土である」と主張しているが、本書はそんな中国目線を排したチベット研究者による通史だ。唐と対等に渡り合った古代から、インド仏教の浸透、衆生を救済する観音菩薩(ぼさつ)の化身とされるダライ・ラマによる政教一致体制の確立、中国による侵攻と弾圧、在インド亡命政府の現在までを抑制の効いた筆致で概観する。

 古来、周辺勢力の脅威にさらされ、今なお西欧資本主義に翻弄(ほんろう)されているが、一方で常に崇敬を集めてきた。モンゴル人や満州人はチベット仏教に深く帰依していたし、非暴力を貫きつつ民族の自治を求め、普遍的な仏教理念をもって現代社会の行き過ぎた物質文明について積極的に発言する現ダライ・ラマの姿は、広く国際社会に支持されている。 

 チベットがこのようであり続けるなら、「国として存在するしないにかかわらず、消えることはない」と本書は結ぶ。連日、ウクライナ情勢のニュースが流れるなか、「国」を守るもう一つの形を見た。

(中公新書 990円)

早稲田大教授。専攻はチベット仏教世界の歴史。

◆もう1冊

『清朝とチベット仏教 菩薩王となった乾隆帝』石濱裕美子著(早稲田大学学術叢書)

中日新聞 東京新聞
2023年6月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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