世帯年収1000万円なのに…全然ラクじゃないのはなぜ?節約だけにとらわれないで

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世帯年収1000万円

『世帯年収1000万円』

著者
加藤 梨里 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784106110207
発売日
2023/11/17
価格
880円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【毎日書評】世帯年収1000万円なのに…全然ラクじゃないのはなぜ?節約だけにとらわれないで

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

「年収1000万円」と聞けば、いかにも贅沢な暮らしをしていそうではあります。なにしろ、現在の日本の平均年収は約400万円なのですから。そのため、「年収1000万円じゃ全然足りない」などといわれたら、「なにをぜいたくなことを!」と不快に感じるかもしれません。

しかしファイナンシャルプランナーである『世帯年収1000万円:「勝ち組」家庭の残酷な真実』(加藤梨里著、新潮新書)の著者によると、それほど簡単な話でもないようです。

そもそも、同じ「世帯年収1000万円」であったとしても、その本質的な経済力は時代によって常に変動します。また、同じ時期であっても家族構成や年代、居住地域など、個人が置かれている状況や公的補助の有無によって、体感はまったく違ってくるはず。

なにより、ひと時代前に比べて、年収1000万円の実質的な経済力は大幅に下がっています。家計の税負担や社会保険料はこの20年ほどで大幅に増えており、働き方や家族構成による違いはありますが、今は額面年収1000万円といっても、手取りにすると700〜750万円前後に過ぎません。

「1000万円」という数字のインパクトと比べると、もう少し現実的で慎ましい印象になるのではないでしょうか。(「はじめに」より)

さらには物価高や不動産価格の高騰によって生活コストも上昇し、とくに子育て世代にとっては厳しい状況なのではないでしょうか?

子どもがいればそれだけ生活費がかかりますし、子どもと暮らす住宅を確保するためには相応の費用も必要。そればかりか当然ながら、教育費もかかることになります。

そういった諸々のことを考えていくと、もし年収が1000万円あったとしても、思ったほどゆとりはないわけです。それどころか、「カツカツだ……」と感じることになってもまったく不思議ではないのです。

そこで本書では、世の中一般では裕福とイメージされがちな年収1000万円世帯のうち、特に子育て世帯に焦点を当てて、その経済力の時代による変化と、子育てにかかるコスト、そして公的援助の有無による家計への影響等をふまえて、暮らしぶりを繙いていきたいと思います。(「はじめに」より)

ここでは第5章「お金の育て方」内の「家計改善の方法は十人十色」に焦点を当て、「支出」と「収入」、そして「働く期間」についての対策をクローズアップしてみることにしましょう。

支出対策:まずは固定費の削減を

支出についてのポイントは、毎月の生活費を減らすこと。月々の支出を長期間にわたって少しでも減らせれば、大きな改善につながる可能性があるわけです。

まず検討したいのが固定費の削減です。一度見直せば、その後ずっと節約効果が続きます。

生命保険や自動車保険、携帯電話、インターネットの料金プラン、電気やガスの契約先やプラン見直し、不要なサブスクリプションの解約などは、期待できる節約効果は月数百円〜数千円ですが、年間にすると数万円以上になることもあります。(174〜175ページより)

住宅ローンやマイカー費用、子どもの教育費などは生活や人生プランへの影響度が高く、削減には手間と時間もかかります。そこで、まずは取り組みやすいものから節約の成功体験を重ねていくべき。そうすれば、おのずとモチベーションも高まるというわけです。

なお、年収1000万円前後の世帯の無駄遣いについては、「“自分たちは高所得世帯だから”と油断して、生活水準を下げられないために貯金ができないのだ」という論調のネット記事などを目にすることがあります。

しかし著者は、そのような例は世間でいわれるほど多くないと感じているそう。「すでに節約に取り組んでいるにもかかわらずたまらない」とか、「子育てや共働きの生活上やむを得ずかかる支出が家計を圧迫している」という人のほうが多いというのです。

もちろん家計が苦しい状態が長く続くようなら、いずれはなにかを削らなければならないかもしれません。しかし、負担の原因が必要不可欠な出費である場合、「無駄遣いを減らす」「とにかく節約する」という考え方だけでは根本的には解決しないこともあるようです。だからこそ、少しでもいいから月々の支出を長期的に減らすべきなのでしょう。(174ページより)

収入対策:世帯年収を上げるために注意すること

出ていくお金を減らすとともに効果的なのが、入ってくるお金を増やすこと。たとえば昇給や転職などで収入を増やすことができれば、その効果を望めるわけです。とはいえそれは経済や勤務先の状況によるところが大きいため、個人の力では変えることが難しいのも事実。

残業を増やすものひとつの手段ではあるでしょうが、収入が上がっても労働時間が増えれば心身への負荷も高まります。しかも子育て世帯では、育児・家事との両立がますます困難になってしまうことも考えられます。したがって、そう簡単に実現できることではないでしょう。

しかし、もし勤務先で認められるのであれば副業を始めるとか、世帯収入を上げるために共働きをするなどという方法もあるはず。

ただし共働きと子育ての両立は決して楽ではないので、「共働きのための出費」が増える可能性も。また収入増によって諸制度の所得制限に引っかかったり、不要から外れて税金や社会保険料の負担がかえって増すこともあるので注意したいところです(2023年10月以降、社会保険加入による手取り収入減への対応策もあるそう)。(176ページより)

働く期間を延ばす

老後の貯蓄額を増やすという観点では、働く期間を延ばすことでも一定の効果を見込めるはず。

会社員の場合は再雇用や雇用継続などで60代後半や70代まで働くとか、それが叶わない場合や再雇用の満了以降はアルバイトなどをして一定の収入を得ることができれば、定年退職を機に給与収入がゼロになることを防げます。その結果、経済的にも精神的にも安定感が得られるわけです。

一方、自営業の場合は自分で引退時期を決めることが可能。そのため、たとえば引退時期を5年延ばすことで家計を改善できたりすることもできるということ。

いずれにしても、将来の年金の給付率低下や支給開始年齢の引き上げなどのリスクに備えることが重要。そのため、現況の家計にかかわらず、老後の収入増に向けた手立てをいまから考えておくことが大切だということです。(177ページより)

住宅、教育、生活費用などの支出について概観するだけではなく、「クレヨンしんちゃん」の野原家など、国民的キャラクターをモチーフにして1000万円世帯の支出を試算するなどのユニークな試みも。暮らしを少しでも楽にするために、ぜひとも参考にしておきたい一冊だといえます。

Source: 新潮新書

メディアジーン lifehacker
2024年2月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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