<書評>『世にもあいまいなことばの秘密』川添愛 著

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世にもあいまいなことばの秘密

『世にもあいまいなことばの秘密』

著者
川添 愛 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
語学/語学総記
ISBN
9784480684684
発売日
2023/12/07
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『世にもあいまいなことばの秘密』川添愛 著

[レビュアー] サンキュータツオ(お笑い芸人、日本語学者)

◆誤解の根源か 面白さか

 「大人気」という漢字を見れば「だいにんき」と読みそうだが「おとなげ」とも読める。「夢のジェンヌへ研さん 宝塚音楽学校、一一一期生入学」という見出しをみると、研ナオコさんが宝塚に入ったの⁉とビックリする。なんだ、「研鑽(けんさん)」のことか。

 こうしたもの以外にも、「先生が変わった」といえば、「A先生からB先生にかわった」と、「暗かったA先生が明るくなった」の、両方の受け取り方ができる。こうした例が山ほどある。ネットで「東野圭吾さんのおすすめ小説」というタイトルを読むと、「東野圭吾さんご本人が選んだおすすめ小説」という意味と、「東野圭吾さんの小説の中から、当サイトが選んだオススメ小説」という意味にとれる。「お医者さんの奥さん」というと、「医者である夫の配偶者」という意味と「医者をしている配偶者」との意味がある。

 言語学の知見を、一般読者にもわかるような身近な例で綴(つづ)る川添さん。今回は一見「多義」的な言語現象を扱っていながら「あいまい」という表現で紡いだところが面白い。専門的に言うと、表記、語彙(ごい)、文法、意味論、語用論などでの「あいまい」を、横断的に用例を収集して語るのはけっこう難しいのだ。

 大江健三郎のノーベル賞受賞スピーチ「あいまいな日本の私」は、「あいまい」が「日本」にも「私」にもかかる日本語の表現性を逆手にとったタイトルだが、本書のタイトルも同様だ。日本語の特性としてあらゆる面で「あいまい」を孕(はら)む事実が小気味よく例証されている。それらが誤解の根源ともなっていることもわかる(とくにSNSやWEB記事の見出しなど)。と同時に、面白さととることもできる。なぜそうなったのかという言語への敏感さを磨くことができる本だ。文中に読者向けの例題があるのも楽しめた。

 それにしても川添さん、お笑い好きだなあ。お笑いの例がたくさん紹介されているが、言語の「あいまい」さこそがお笑いにとってのビッグチャンスであることをよくご存じだ。

(ちくまプリマー新書・990円)

1973年生まれ。言語学者、作家。著書『白と黒のとびら』など。

◆もう一冊

『言語学バーリ・トゥード』川添愛著(東京大学出版会)

中日新聞 東京新聞
2024年2月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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