『台湾 和製マジョリカタイルの記憶』康鍩錫著

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台湾 和製マジョリカタイルの記憶

『台湾 和製マジョリカタイルの記憶』

著者
康鍩錫 [著]/大洞敦史 [訳]
出版社
トゥーヴァージンズ
ジャンル
工学工業/建築
ISBN
9784910352725
発売日
2023/10/24
価格
2,420円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『台湾 和製マジョリカタイルの記憶』康鍩錫著

[レビュアー] 小池寿子(美術史家・国学院大教授)

統治下彩った建物装飾

 日本統治下の台湾で1920年から35年頃までの15年ほどの短い期間に、和製タイルが隆盛をみる。住宅を万華鏡のように飾る彩色タイル(花磚(フアジュアン))は壮観の一言につきる。19世紀ヴィクトリア朝様式タイルが日本から台湾へと輸出され、現地でも生産が相次いでタイル文化を育んだという。本書では、この和製タイルに魅了され、20年に及んで撮影した筆者の渾身(こんしん)のタイル画像1000点以上が総覧できる。

 タイルの起源と展開は錯綜(さくそう)している。中近東の古代文明においてタイル製造の原型となるレンガが焼かれ、やがて原料となる土壌の選別から焼成方法、ガラス質を多く含んだ磁器に至るまですさまじい試行錯誤が繰り広げられた。一方、先人である中国でも長い歴史を刻んだ。陶磁器製造において他に並ぶ地域はない。中国磁器は17世紀の官窯景徳鎮の閉鎖によって、薩摩などで陶磁器製造が受け継がれ、その産業は明治維新に連なる国力の財源になった。

 ではなぜ、日本統治下の台湾で彩色タイルがもてはやされたのだろうか。本書では「和製マジョリカタイル」の名称を用いているが、中近東からの陶器製造がイベリア半島やイタリア本土へと継承され、中継地「マジョルカ(マヨルカ)」島の名を冠した焼き物の歴史を物語る用語であって彩色タイルが正しく、その隆盛は当時の富裕層の嗜好(しこう)が関係するという。パリやウィーンでの万国博覧会、日本の内国勧業博覧会などによって国内外の産業の地位が知られたこと、またヴィクトリア朝文化の移入などがこの時期の日本のタイル文化興隆を後押しした。

 この台湾彩色タイルには、古今東西の交流史の中で装飾という生命を育み続けた焼き物の歴史が凝縮されている。古代からのタイル製造や技術、そして台湾和製タイルの図案の装飾性に見る濃密な特質を丁寧に解説する本書はヴィジュアルを堪能しながら、連綿と続く陶磁器と人の営みを教えてくれる。大洞敦史訳。(トゥーヴァージンズ、2420円)

読売新聞
2024年2月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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