「経営の書」が馬鹿売れする理由
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
日常、貧乏、家庭、恋愛、勉強、虚栄、心労、就活、仕事、憤怒、健康、孤独、老後、芸術、科学、歴史、人生。『世界は経営でできている』は実に多くの事柄について語ってる書なのですが、同時に、実に多くの事柄を語れる書でもある。
第一に売れてます。1月刊行で早くもベストセラー、増刷に次ぐ増刷ゆえ書店で見かけるたび帯が替わってて、間に合わなかったのか、帯なし版まで登場した。
第二に岩尾俊兵という著者が変わってます。中卒後自衛隊に入り、辞めて高卒認定試験で慶大→東大の院と進み、経営学の研究者になりつつ、純文学の小説や評論も書いてたとか。
第三に経営という一見狭そうな世界の拡がりがハンパじゃありません。経営は『詩経』に出てくる古い漢語ながら、いま使われてるのは英語のmanagementの訳語として。高校野球のマネージャーは世話焼き係である一方、大リーグのmanagerはチームの監督だったりするくらいだからマネジメントの意味するところは管理、運営、運用、処理など広大で、著者は幅広く目配りしてます。
このマネジメントの多面的なありよう、山ほどある効用と限界を、数多い切り口から描き、教えてくれるのが、この新書。狭義の経営を学ぶ気は一切ないワタシも、自分自身の身の処し方からニッポンの自称リーダーたちの舵取りに至るまで、自他のマネジメントのどこがどう駄目なのかが痛いほどよく眼に見えた。そりゃ売れるはずだわ。