【聞きたい。】村雲菜月さん 『コレクターズ・ハイ』 一方通行の好きなモノ語り

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コレクターズ・ハイ

『コレクターズ・ハイ』

著者
村雲菜月 [著]
出版社
講談社
ISBN
9784065345962
発売日
2024/02/29
価格
1,485円(税込)

【聞きたい。】村雲菜月さん 『コレクターズ・ハイ』 一方通行の好きなモノ語り

[レビュアー] 海老沢類(産経新聞社)

昨年デビューを飾った新人作家。勤務する会社でフィギュアや文房具などの商品企画にも携わってきた。「ネット上で、自分が作った商品のファンの方々のコミュニティーを見る機会もあって…。物を集める人の心理は?と考えているうちに物語ができていったんです」と話す。

お気に入りのキャラクターグッズ集めに執着する女性の日常をポップに描く。主人公は玩具会社でカプセルトイを企画している女性、三川。自分の企画はほとんど通らず、ヒットを送り出す先輩がまぶしく映る。そんな彼女が入れ込むのが、無表情な顔がかわいい「なにゅなにゅ」のグッズ集め。枕カバー、ぬいぐるみ…と、すでに部屋にはグッズがたくさんあるのに新作が出るたびに手に入れようとするのだ。

キャラクターに魅了されて始めたはずのグッズ集め。でも三川の中で次第に収集自体が目的化し、キャラクターへの愛から外れた不純なものも混ざりこむ。グッズ購入を迷う女子高校生の目の前で「箱買い」して優越感に浸る。かと思えば、集める喜びが他者に対して優越を感じる喜びに転化しているのを感じ、自己嫌悪に陥る。〝推し〟に没頭する高揚感とともに漠然とした不安も紡がれる。

「お金を払って相応の時間をかければ物は集められる。うまくいかない世の中でも、集めた物は自分を裏切らない。安心感や興奮が得られるから、と収集が生きがいになった人も多い気がする」

「髪オタク」の美容師、「クレーンゲームオタク」の会社員…と、三川と交流する面々もそれぞれの偏愛に邁進(まいしん)するばかり。一方通行の会話を重ねる姿には悲哀もにじむ。「20代くらいの人は自分のことを直接語るよりも『好きなものについて語ることで自分を表現したい』という欲求が強いと思う。結果、本当に一対一でコミュニケーションが取れているのか、という疑問が出てくる。互いの関係性が希薄になっているのでは、とも感じるんです」

今後も会社に勤めながら執筆に打ち込む。「働いているからこそ書ける描写もきっとある。読んだ人に何か発見を与えられる物語を書ければ」(講談社・1485円)

海老沢類

   ◇

【プロフィル】村雲菜月

むらくも・なつき 作家。平成6年、北海道生まれ。金沢美術工芸大卒。令和5年に『もぬけの考察』で群像新人文学賞を受けてデビュー。本書が2作目となる。

産経新聞
2024年3月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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