村上春樹と柴田元幸が選んだ「もう1度読みたい名作」たち

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村上春樹と柴田元幸が選んだ「もう1度読みたい名作」たち

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 未読の小説の復刊や新訳を目にすると「誰かが復刊・新訳したいと強く願ったほどなのだからいい作品に違いない」と期待が高まる。その強く願った人物が村上春樹、柴田元幸の両氏とくれば、もう手にとるしかない。2人がもう一度読みたい名作10点を選び新訳・復刊する〈村上柴田翻訳堂〉シリーズがスタートした。第一弾は村上氏による新訳のカーソン・マッカラーズの『結婚式のメンバー』と、柴田氏による新訳のウィリアム・サローヤン『僕の名はアラム』(共に新潮文庫)。

 マッカラーズは1917年アメリカ・ジョージア州生まれの女性。10代から作家を志し、単身ニューヨークに出て、23歳で長編小説を発表し、注目を集める。46年の作品『結婚式のメンバー』では南部に暮らす12歳の少女が単調な日常を変えたくて、兄の結婚式を機にある行動に出る。人生に馴染めない思春期の孤独をひりひりと描く。

 サローヤンは1908年カリフォルニア州生まれ、アルメニア系移民の血を引く。『僕の名はアラム』は9歳の少年アラムが、大家族の日常を語る。貧しい生活ではあるがのびやかさがあるのは、アラムが不器用な大人たちを、どこか大らかな目で見ているから。遠方まで出かけたのに仕事にありつけないジョルギおじさん、家族に内緒でザクロ園を作ろうとして問題に直面するメリクおじさん……。落書きをアラムのせいにして叱る校長先生との心理戦は意外な展開で痛快。素朴で諧謔味を帯びた世界が広がっている。本シリーズは他にフィリップ・ロスやトマス・ハーディらが登場。

 新訳といえば意外に思ったのがギャビン・ライアル『深夜プラス1』(ハヤカワ文庫NV)新訳版。一人の男をリヒテンシュタインまで送る依頼を引き受けた名ドライバーのケインの前に、次々敵が立ちはだかる。冒険小説好きなら知らない人はいない名作だ。菊池光訳が決定版だと思っていたが、鈴木恵氏による新訳でも怒涛の展開を堪能できる。こうしてリニューアルされて、名作の息が長くなることは喜ばしい。若い世代にもぜひ読んでもらえたら。

新潮社 週刊新潮
2016年5月19日菖蒲月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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