ごみ船に立小便 絵葉書で知る社会事情

レビュー

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ごみとトイレの近代誌

『ごみとトイレの近代誌』

著者
山崎 達雄 [著]
出版社
彩流社
ジャンル
社会科学/民族・風習
ISBN
9784779122354
発売日
2016/07/22
価格
2,376円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

ごみ船に立小便 絵葉書で知る社会事情

[レビュアー] 稲垣真澄(評論家)

 近代日本のごみ事情・トイレ事情をたどるのが本書のテーマだが、手法がちょっと変わっている。汚物(ごみ)焼却場完成記念の「絵葉書」や、現在の水洗トイレの先駆型ともいえる汚水浄化装置やトイレットペーパーの「新聞広告」を博捜し、それらからごみ事情・トイレ事情を再構成するのだ。

「絵葉書のようにキレイ」という言葉がある。キレイなところだけを写し、そうでないところは写さない、という観光絵葉書の特性をいい当てているが、昔の絵葉書は必ずしもそうではなかった。

 明治三十三年に絵葉書の発行が許可されるや、街並みや風俗、日々の暮らし、仏像や彫刻、俳優や名妓、乗り物、祭りや博覧会の催し、公共施設、商業施設、工場、さらには戦場、震災などの災害現場まで、それこそ美醜を超えて、社会のあらゆる側面を切りとって絵柄とした。テレビもスマホもない時代に、絵葉書に担わされた情報媒体としての役割が、いかに大きかったことか。

 さて、そんな絵葉書の伝える戦前のごみ事情とは? 絵葉書の発行が許可されたのと同じ明治三十三年施行の「汚物掃除法」は、ごみの収集(とできるなら焼却)を市が行うこととしたため、以来、米沢、大阪、神戸などに焼却施設が造られていった。ただ、野積みや野焼きも相変わらずで、焼却までを市の責任と明記したのは昭和五年の「汚物掃除法施行規則」改正である。改正以前の昭和三年の全国焼却施設八十一カ所に対し、以後は昭和十年の百二十三カ所、十五年の百八十四カ所と急増している(戦時中はごみの減少で、かえって閉鎖)。

 それらの竣工に際し、記念絵葉書が関係者に配布されるケースが多かった。長崎市野牛島汚物焼却場(大正九年)、京都市塵芥焼却場(大正十四年)、一宮市営塵芥焼却所(昭和初期)、下飯田汚物処理所(昭和四年)……等々である。外観や設備から当時の処理技術や都市状況を類推することもできる。たとえば大阪の焼却場にクレーンやホイスト(巻揚機)が目立つのは、ごみ運送に運河が利用され、船底から引き上げるのにそれが不可欠だったからだ。市役所などの聳える中之島の土佐堀川を、堂々と曳航されるごみ船の絵葉書もあったりする。

 トイレに関しては、宮武外骨の「滑稽新聞」の増刊たる「絵葉書世界」の絵葉書が秀逸だが、石野馬城の絵による「此處小便無用」の看板を見ながら立ち小便をする男の子と女の子の絵葉書も面白い。「コンナ字ガボクダチニヨメルモンカ」と。驚くことに「此所不得小便」は平城京木簡にも書かれているそうだ。

 著者は京大衛生工学科卒後、京都府に勤め、長く環境・廃棄物行政に携わる一方、趣味として絵葉書やトイレットペーパーの収集に励んでこられた。

新潮社 新潮45
2016年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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