花と樹木と日本人 有岡利幸 著

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5
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花と樹木と日本人

『花と樹木と日本人』

著者
有岡 利幸 [著]
出版社
八坂書房
ISBN
9784896942262
発売日
2016/09/24
価格
2,916円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

花と樹木と日本人 有岡利幸 著

[レビュアー] 高橋千劔破(作家・評論家)

◆梅は香りを尊ぶ文化

 日本は四季折々の自然に恵まれた山国で、山々の多くは樹木に覆われている。そして雨の多い国土に生育する樹木は、再生率がきわめて高い。樹木の恩恵なくして、日本の文化は成立しなかった。

 本書は多数の樹木の中から花木と建材の計八種を選び、その樹木と日本人がどのように関わり、それらが文学や文化の中でどう表現されてきたかを述べる。

 全九章のうち、第一章は梅を取り上げる。梅は三世紀の『魏志倭人伝』に早くもその名が見え、『万葉集』には梅を詠んだ歌が一二七首もあるという。さらに『古今和歌集』には二八首が収められているが、その多くは、梅を花木として愛(め)でるのではなく、その香りを愛したものという。たとえば、凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)の「月夜にはそれとも見えず梅の花香をたづねてぞ知るべかりける」や、紀貫之の「人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける」などがよく知られている。

 また『源氏物語』には「梅の香も御簾(みす)の内の匂ひに吹き紛ひて…」云々(うんぬん)と出てくる。『枕草子』には「濃きも薄きも、紅梅」と、その美しさを称(たた)えた描写があり、菅原道真の「東風(こち)ふかばにほひおこせよ梅の花あるじなしとて春をわするな」にまつわるエピソードも紹介される。

 さて、第二章以下はどんな樹木が紹介されているのか。関心を持たれた方は、ぜひ本書をお読みいただきたい。

 (八坂書房・2916円)

<ありおか・としゆき> 1937年生まれ。植物研究者。著書『桜』『梅』『欅』など。

◆もう1冊 

 中尾佐助著『花と木の文化史』(岩波新書)。世界の花の歴史をたどるとともに、日本の園芸文化の独自性を解説。

中日新聞 東京新聞
2016年10月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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