豊竹咲甫太夫は『こども孫氏の兵法』を息子に贈り強くしなやかに生きてほしいと願う

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強くしなやかなこころを育てる! こども孫子の兵法

『強くしなやかなこころを育てる! こども孫子の兵法』

著者
齋藤孝 [監修]
出版社
日本図書センター
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784284203777
発売日
2016/03/15
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

豊竹咲甫太夫は『こども孫氏の兵法』を息子に贈り強くしなやかに生きてほしいと願う

[レビュアー] 豊竹咲甫大夫(人形浄瑠璃文楽座・太夫)

豊竹咲甫太夫

 小学5年生の長男坪井寿雄が太夫になりたい! と言い出して1年が経った。きっかけは、NHK Eテレ「にほんごであそぼ」に、出演するようになったことかもしれない。稽古はもともと幼稚園の頃からしていて、こども向け演目があるときは、楽屋へも出入りもしていた。国立文楽劇場の近くにある高津小学校では、毎年6年生による「こども文楽」があり、その稽古に同席させてからは、ますます熱心に楽屋に来るようになった。また、自宅にたくさんの若手技芸員が訪ねてくれることも影響してか、次男もやる気に満ちている。こどもたちの教育は家族に任せきりで、自転車の乗り方もボールの投げ方も教えたことがない私にとっては唯一教えられることができたことが嬉しくもある。絵本すら買ってあげたこともない私が、本屋でこどもたちに本を買った。生真面目な長男には、齋藤孝監修『こども孫子の兵法』。自由で絵の上手な次男には、辻惟雄著『若冲』。
 今回は、長男に選んだ本を紹介したい。齋藤孝さんは「にほんごであそぼ」で総合指導してくださってもいる。
 中国で生まれた『孫子の兵法』は時代をこえて、多くの人に読まれてきた。元々争いに勝つための考え方や戦い方が書かれたまさに兵法だが、この本には生きていくヒントが詰まっていて、おとなだけのものにするのは勿体ない。齋藤さんは、こどもだって、競争もあるし、人間関係で悩むこともある。将来に不安を感じることもある。たいへんな環境で生きているのは、おとなだけではない。だからこそ『孫子の兵法』はきっとこどもに役立つはず! と、本書を作ったそうだ。とくにこどもたちに知ってほしい24のことばを選び出して、「こども超訳」で紹介している。私が手にとって初めて開けたページには、「第4章 もう1歩踏み出すためのヒント」として、「勝(か)ちを見(み)ること衆人(しゅうじん)の知(し)るところに過(す)ぎざるは、善(ぜん)の善(ぜん)なる者(もの)に非(あら)ざるなり」ということばが引用されていた。
 これに対して、「目立(めだ)ちたいとか、ほめられたいとか、もしきみがそんなふうに思(おも)ったときは、このことばを思(おも)い出(だ)してほしい。孫子(そんし)せんせいは、だれにでもわかる目立(めだ)つ勝(か)ち方も、もっともよい勝(か)ち方(かた)ではないといっているよ。それよりも、しっかり準備(じゅんび)をして確実(かくじつ)に勝(か)つほうがすごいことだと考(かんが)えているからなんだ。人前(ひとまえ)で派手(はで)にがんばる姿(すがた)は目立(めだ)つし、ほめられることも多(おお)い。そのいっぽうで、冷静(れいせい)にコツコツと努力(どりょく)する姿(すがた)はあまり目立(めだ)たないし、ほめられることも少(すく)ない。でも、じつはそれこそが、孫子(そんし)せんせいのいう「善(ぜん)の善(ぜん)なる者(もの)」つまり本当(ほんとう)にすごいことなんだ。だってその人(ひと)は、人(ひと)には知(し)られない地道(じみち)な努力(どりょく)をつみ重(かさ)ねてきたということだからね。そして、努力(どりょく)はだれかにアピールするためではなく、自分(じぶん)のためにするものだということを知っている人(ひと)なんだ」とわかりやすく書かれている。
 私は息子に、この本を自由に読んで楽しんでもらい、この世の中を「強くしなやかなこころ」で生き抜くヒントを手に入れてもらいたい。

 ***

『こども孫氏の兵法』
ベストセラー『声に出して読みたい日本語』などを執筆し、独自の教育論、身体論、コミュニケーション論を展開する齋藤孝がこども向けに超訳した「孫子の兵法」。2016年、日本図書センター刊、1620円

太田出版 ケトル
VOL.31 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

太田出版

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