『大学入試の共通試験改革をめぐるポリティクス』中村恵佑著

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大学入試の共通試験改革をめぐるポリティクス

『大学入試の共通試験改革をめぐるポリティクス』

著者
中村 恵佑 [著]
出版社
東京大学出版会
ジャンル
社会科学/教育
ISBN
9784130562416
発売日
2024/01/09
価格
7,920円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『大学入試の共通試験改革をめぐるポリティクス』中村恵佑著

[レビュアー] 清水唯一朗(政治学者・慶応大教授)

試験改革 関係者の努力

 二月二五日、国立大学二次試験の日がやってきました。朝、緊張しながら新聞を手にした受験生もいらっしゃるかもしれません。

 この日が前期日程の試験日となったのは一九九〇年のこと。ずいぶんと長い時間が過ぎました。入学試験の変更は受験生への影響が大きいため慎重さを求められるものですから、長く日程が変わらないことも頷(うなず)けます。

 なにより教育は百家争鳴です。政府から現場、教員から生徒、保護者、さらには財界まで、様々なアクターが専門性と想(おも)いを持ってかかわるため、なかなか変えにくいと言われます。

 ところが、ここ数年は学習指導要領の改訂に加えて「高校生のための学びの基礎診断」が導入され、センター試験が共通テストに切り替わるなど、大きな転換が見られました。教育改革に意欲を燃やす政権が、トップダウンで政策変更を推し進めたという理解が一般的なようです。

 これに対して、本書は政治主導、新自由主義という枠組みは継承しつつ、二つの道具立てでよりリアルな教育政策の世界を見せてくれます。

 変化の構造を知るためには不変の構造を知る必要があります。一九七〇年代の共通一次試験導入から説き起こし、それが一〇年で変化を迫られたこと。その後を受けたセンター試験が社会環境の劇的な変化に晒(さら)されながらも三〇年にわたって続いたこと。この過程を通じた分析で、政策変化が起こる条件が明らかにされます。

 鍵を握ったのは、多様な想いを持つアクターたちでした。強権的な政治主導ではなく、声を取り上げ、理解と支持を得られる政策にまとめていく周到な準備と、成立に向けたアクター間の努力がにじんでいます。

 こうして生まれた共通テストが普遍的な基礎力を確認するのに対して、今日から実施される二次試験は各大学、各学部からのダイレクトメッセージと言われます。受験生の皆さんが自分らしくあれる場と出会えますように。(東京大学出版会、7920円)

読売新聞
2024年3月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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