米光一成は『地球最後の刑事』と「The End of the World」に触れ明日、世界が滅びるとしたら……? と考える

レビュー

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地上最後の刑事

『地上最後の刑事』

著者
ベン・H・ウィンタース [著]/上野 元美 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784151819513
発売日
2016/06/09
価格
950円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

米光一成は『地球最後の刑事』と「The End of the World」に触れ明日、世界が滅びるとしたら……? と考える

[レビュアー] 米光一成(ゲーム作家/ライター/デジタルハリウッド大学客員教授)

米光一成

「明日世界が滅びるとしても、今日私はリンゴの木を植える」マルティン・ルターの名言だ。
 正しい。とは思うが、本当に明日世界が滅びるとしたら、どうするだろう?
 近未来警察小説『地上最後の刑事』は、世界が終わる直前が舞台だ。半年後、100%の確率で小惑星と地球が衝突するのである。
 主人公は新人刑事。トイレで首吊り死体になって発見された男を見つめているシーンからはじまる。
 「まあ、自殺だろう」と、みんな言う。世界が滅びる直前なので自殺も珍しくない。
 男の姉も「弟は幸せではありませんでした。刑事さん、私が弟を大切に思っていたことを、あなたに知ってほしかった。不幸な子でした。だから自殺したのよ。もう電話しないでください」と言う。
 でも、首吊りにつかったベルトだけが高級品であることに気づいて、新人刑事は、他殺の線で捜査する。
 多くの人が「死ぬ前にしたいことリスト」をかなえるために仕事を辞めて享楽的に生きている。麻薬の需要が急増し、犯罪も増加した。
 働いている人間は少ない。「あなたはなぜ、ずっとやりたいと思っていたことをしに、どこかへ行かなかったんですか?」と問われる。
 だれも捜査することを期待していない。そういったなかで、地道な捜査をしていく。
 世界が終わるなかで彼はなぜ孤軍奮闘し続けるのか。それが物語の鍵になっている。
 明日世界が滅びるとしたら、ぼくは何をするだろう?
 「明日世界が滅びるとしても、今日私はリンゴの木を植える」マルティン・ルターの名言だ。
 正しい。とは思うが、本当に明日世界が滅びるとしたら、どうするだろう?
 「THE END OF THE WORLD」は、世界の終わりを体験するゲームだ。ねずみ色の光景。建物は崩れ落ちている。自分以外に生き物はいない。説明もなければ、セリフもなし。
 ベッドで目覚める。猫背で痩せた男が自分だ。秒針の音だけが響く。窓から光が差し込んでくる。
 壁の時計をタップすると、暖かな色に変わる。音楽が流れる。自分と恋人がベッドの中にいる。過去の記憶が蘇っているのだ。時計から指を放すと、灰色の世界にもどる。
 移動する。衣装ケースから服を取り出し着る。コーヒーを飲む。細やかな日常が描かれる。
 することは何もない。外へ出る。寂しい絵画のように終わってしまった世界を歩き回るだけだ。
 バーに行って、時計をタップすれば、恋人と飲んだときのことを思い出す。
 そしてまた目を覚ます。服を着る。コーヒーを飲む。繰り返される終末の日常。解かなければ進めないといった謎はないし、襲いかかってくる敵もいない。
 短い映画を体験しているようなゲームだ。プレイ時間も20分ぐらいだろう。
 次に目覚めたとき、世界は闇に包まれている。物語は最後のときを迎える。
 明日世界が滅びるとしたら、ぼくは何をするだろう?

 ***

『地球最後の刑事』
小説『地球最後の刑事』は、ベン・H・ウィンタース著のSF小説。半年後、小惑星が地球と衝突し人類は壊滅すると予測される中で起きた自殺に対し、新人刑事パレスは疑いを持つ。ハヤカワ・ポケット・ミステリ。1728円。「The End of the World」は、iOS、Androidでプレイ可能なゲームアプリ。エンディングは複数用意されている。ショーン・ウェナム作。無料

太田出版 ケトル
VOL.31 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

太田出版

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