オードリー若林「正義のラインを越えると人は笑わない」愛のある表現について語る

テレビ・ラジオで取り上げられた本

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 お笑いコンビオードリーの若林正恭さん(37)が司会を務めるBSジャパンの番組「ご本、出しときますね?」が6月24日最終回を迎えた。読書家として知られる若林さんが、プライベートでも親交のある小説家をゲストに迎え、濃密なトークを繰り広げてきた同番組。小説家の素顔が見られる貴重な番組の終了を惜しむ声があがっている。

■誰かを傷つけていることを自覚する

 最終回のゲストは前回に引き続き、共に直木賞作家の角田光代さん(49)と西加奈子さん(39)。作家と若林さんが自分に課しているルールを語るコーナーで西さんは「誰かは傷つけていると思いながら書く」と明かした。東日本大震災以降、テレビ・音楽・映画などあらゆるメディアで広がる表現の“自粛”や“配慮”。西さんも小説を書いていると「これ震災に遭われた方が読んだらどう思うやろ」と考えてしまうことがあるという。しかしそこで気が付いたのは、大震災は規模が大きかっただけで、これまでも常に誰かを傷つけていたのではないか、ということだった。例えば「全力で走った」と書けば全力で走れない人を傷つけている。そこに「無自覚でいたくない」と語る。常に誰かを傷つけていると自覚したうえで、作品に責任を取ろうと思うようになったと心境の変化を明かした。

■あらたに出現した“感想”

 誰かを傷つけないようにと、表現を変えてしまうことはあるのか、と若林さんに問われた西さんは「物語にとって凄く必要な表現なら変えない。作家である限り自分の表現にビビったらあかん」と言葉を選びながら切々と語る。角田さんもそれを受け「一昔前は無自覚に書けた。以前は『この表現が誰かを傷つける』という感想はなかった。しかしここ数年は『この表現で傷ついた』という感想が普通になってきた」と社会や読者の受け取り方の変化を指摘した。しかしそこで「考えだしちゃうと何も書けない」と話し、その“怖さ”をどこかで引き受けなければいけない、と意を決したように語った。

■正義のライン

 それまでの話を若林さんはお笑いに当てはめ「人間は善の気持ちがすごく強い」と語る。誰かをイジるような笑いは、一定のラインまでは笑ってもらえる。しかしそのラインを越すような酷い言葉はウケない、という「正義のライン」がある、と見事な表現で作家2人を唸らせた。そのラインは「愛があるかどうか」が基準になっており、自分が思っているよりそのラインは手前にあり「みんないい人なんだな」と感心をあらわした。若林さんはそのラインがあることは希望であり、それがあることに「救われた」とも語った。

 前回の放送で社会が不寛容になっていることに懸念を示し、「正義は優しくない」と3人は語りあっていた。「正義のライン」は近年どんどんと低くなっており、みんなが“いい人”になってゆく社会。そのなかで表現をするものは、西さんや角田さんのように誰かを傷つけていると自覚しながら、その責任も怖さも引き受けなければならないのだ、ということが3人の鼎談であきらかになった。しかしそこに愛があるかどうかを皆が感じ取っているという若林さんの指摘は、不寛容で優しくない社会のなかに見いだした一縷の希望でもあるのだろう。

■ズルをしない

 また角田さんは「ズルをしない」とのルールを表明し、小説を書くうえで安易な設定や表現に頼らないと持論を述べた。丁寧なストーリーの展開で定評のある角田さんならではの主張だ。そして番組の最後には「ズルをしていない小説」として開高健がベトナム戦争と向かい合った私小説『輝ける闇』(新潮社)を薦めた。戦争から逃げずに向かい合う姿勢と、その濃厚な「バターっぽい」表現をつかってまで描写したいんだと伝わってくる作品だ、と紹介した。

■リクエストを出そう

 毎週小説家が出演する貴重な番組の終了を受け、ネット上には番組を惜しむ声が溢れた。番組プロデューサーの佐久間宣行さんは自身のTwitter(@nobrock)で「皆様のリクエスト次第でシーズン2あるかもなので、ぜひBSジャパンまで。書籍化に書店でのフェア、やりたいです。」と発言しており、番組内で若林さんも「まだまだ広がりますから」と書店での展開も考えている事を明かしていた。

 番組終了にあわせ、同番組の最終回と前回、2回分の放送がBSジャパンのウェブサイト(http://www.bs-j.co.jp/gohon/index.html)で無料配信されている。BSジャパンへの要望は、問い合わせフォーム(http://www.bs-j.co.jp/opinion/)から出すことができる。

BookBang編集部

Book Bang編集部
2016年6月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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