ニワトリと人類——熱くて、深いカンケイになったわけ

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来年は酉年、ニワトリの年である。鶏肉や卵はおなじみの食材だが、意外にニワトリ自身のことについては知らないのでは? 

現在、世界中になんと200億羽!のニワトリがいるのだが、その用途は食べ物としてだけではなく、人間に欠かせない重要な役割をいろいろ担ってくれている。

たとえば、ニワトリの卵は、インフルエンザのワクチンをつくる入れ物としても使われているのだ。こうしたワクチン製造工場は、無菌状態が保たれ、部外者は出入り厳禁、卵をどの農家から仕入れるのかも極秘だという。あるドイツの工場では、毎日1度に18万個もの卵をトラックで収集し、年間6000万回摂取分のワクチンを生み出している。インフルエンザの大流行が食い止められているのも、まさにニワトリのおかげなのだ。

もっとも、ニワトリと医療のかかわりは、今に始まったことではない。古代ギリシャで雄鶏が癒しと医術の神に供えられたように、ニワトリは古来から「二本足の薬箱」として重宝されてきた。完全栄養食品と言われる卵はもちろん、あらゆる部位がさまざまな疾患に処方されてきたのだ。

さて、こんなニワトリの思わぬ姿を世界各地を取材しながら教えてくれるのが、アンドリュー・ロウラー著『ニワトリ 人類を変えた大いなる鳥』(インターシフト刊)である。以下、本書から気になるトピックを幾つかお伝えしよう。

●天照大神を呼び戻すために

日本神話によれば、天照大神が天の岩屋戸に隠れてしまった時、呼び戻すために連れて来られた動物は、神の使いであるニワトリだった。日本に限らず世界各地でニワトリは太陽や精霊への信仰などとともに、魔術的シンボルとして畏敬されてきた。
帝国を築いた古代ローマでも、鳥卜官と呼ばれる神官が、ニワトリのお告げによって国家の大事を取り決めていたほどだ。
その畏敬の念は、宗教においても、ゾロアスター教のニワトリ信仰から、キリスト教会堂のてっぺんに置かれた風見鶏まで息づいている。

●人類の移住ルートを知る鍵

私たちの祖先の移動に伴って、ニワトリもまた大陸を越えて広がっていった。ということは、各地に遺されたニワトリの骨のDNA配列を調べれば、人類のさまざまな移住経路もシミュレートできるということだ。その結果、コロンブス以前に新世界と旧世界の交流があったらしいこと、人類がいつ頃どのような経路で太平洋を渡っていったのかーーなどが解明されつつある。

●深い仲になったわけ

ニワトリの起源は、東南アジアの森に棲むセキショクヤケイ(赤色野鶏)とされる。だが、この鳥は、きわめて用心深く、「飼い慣らせないヒョウ」のようだ。そんな野生の鳥が、いったい、どのようにして人類に欠かせない伴侶となったのか? 
まだ謎は多いが、そのきっかけは食料としてではなく、信仰・儀式(生贄を含む)や、実用(骨は縫い物や刺青に、羽は飾りに、肉・卵は薬に、暁の鳴き声は時計に)、そして娯楽(闘鶏)などのためだった。とりわけ闘鶏は生きた戦闘ゲームとして人々を夢中にさせ、各地へニワトリが広がっていく原動力になったようだ。

●生まれついての数学者

ニワトリは、かなり賢いことがわかっている。足し算・引き算はもとより、幾何学を理解したり、論理的に推論したりもできる。ある実験では、大学院生を上回ることがあったほど! しかも、こうした「知性」は、だれに教えられたわけでもなく、天性のものなのだ。ちなみに、ニワトリの頭が、かくかくと奇妙に動くのは、左右の目を別々に使っているから・・・・たとえば、一方の目でエサに焦点を合わせながら、もう一方の目で捕食動物が来ないかどうか見張ることができるという凄ワザである。

●ゴージャスな食用ニワトリの創作

食用として流通している肉付きのいいニワトリ(ブロイラー)が誕生するきっかけは、英国ヴィクトリア女王の時代までさかのぼる。当時、太平洋の測量の任に就いていたある悪名高い艦長が、ヴィクトリア女王にアジア産のニワトリを贈った。以来、女王夫妻はニワトリ飼育に熱意を注ぐようになり、やがて市井の人々にも熱狂的ブームとして波及していく。ブームはアメリカにも飛び火し、全国的な家禽展示会が開かれ、新種のニワトリも次々と生まれていった。
こうしたブームが下地となり、やがて二度の大戦を経たあとに、産業用として世界を席巻する品種がアメリカで作られるのだ。今日でも、クルマのモデルのように新しい品種が次々と作られている。その名も、ロス308、コッブ700などまるでクルマみたいだ。
これらのニワトリの遺伝的形質はごくわずかな育種企業が握っており、農家は企業から次の世代を買わなければならない。

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今日、鶏肉は牛肉・豚肉などと比べて国際的な消費量が急増しており、とりわけ新興国・途上国での需要がぐんと伸びている。人類にとってますます不可欠な食材となり、成長する巨大都市のエネルギー源にもなっている。

もし私たちが他の惑星へ移住する時がきたならば、最も重要なタンパク源としてニワトリをまず同行させるだろう。実際、NASAはニワトリが惑星間旅行に耐えられるかどうかの実験をしており、可能と結論づけている。

にもかかわらず、数が増えれば増えるほど、ニワトリの姿は消費者の目には見えない「大量生産工場」の中へと閉ざされていく。その苛酷な環境は「絶滅よりも悪い運命」と言われるほどだ。

ニワトリと人類——余りにも身近なだけに、気づきにくいこの生き物とのかかわりを、酉年をきっかけに思い巡らしてみたい。

インターシフト
2016年11月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

インターシフト

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