「女性特集」をやめた老舗雑誌「短歌研究」5月号が、創刊90年目で初の重版

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 雑誌「短歌研究」は、昭和7年創刊。戦前戦中には斎藤茂吉や与謝野晶子、北原白秋などの歴史上の歌人たちの新作を掲載し、戦後は、塚本邦雄らと前衛短歌運動を牽引。寺山修司・中城ふみ子というスター歌人をデビューさせた。そんな90年の伝統のなかでも、「これは初めて」というのが、今年5月号の「重版」だ。

 老舗短歌雑誌に、なにが起こったのか。

 同5月号では、300人の歌人が、「ディスタンス」というテーマで詠んだ新作7首ずつを一挙収録。

 表紙には、「一冊丸ごと、短歌作品。性別や年齢では括りません」とうたう。

 馬場あき子氏の巻頭30首のあとは、性別・年齢に関わりなく、約300人の作品を五十音順で掲載している。

 これが発売とともに評判となり、部数4000部のところ完売店が相次ぎ、追加注文の対応に追われ、5月12日に2刷500部、6月2日に3刷1000部が増刷出来となる。5月21日発売の6月号と併売され続け、月刊誌では異例の“ロングセラー”となった。

 異例の売れ行きの要因は、まず「300人」という、これまでにない規模の歌人が集まったこと。さらに作品が、「ディスタンス」というテーマで、コロナ時代の「いま」を短歌にした作品を集めたこと。「7首×300人で2100首とは、『万葉集』の半分の規模だ、すごい」というTwitterの書き込みもあった。

 さらに支持を集めたのは、性別や年齢で括らず、歌人名の五十音で作品を掲載したことが大きいのだという。

 同誌は、少なくとも50年以上、恒例の特集として、3月号に「女性歌人特集」を、5月号に「男性歌人特集」を、それぞれ100人から130人で組んでいた。それを一昨年、「いまの編集方針に合わない」ということで、昨年から5月号に性別や年齢で括らない大特集にしたのだ。

 ジェンダーについての社会的な関心の高まりの中で、「女性特集をやめる」ということが支持を集めるという、いかにも今日的な「異例の重版」だったようだ。

 馬場あき子氏の作品だけが、巻頭特別作品として、30首が掲載されている。その作品のタイトルは「ドラえもんの扉」。このタイトルの親しみやすさも、短歌の専門雑誌を初めて買うという人に、敷居を低くする役割を果たしたとも言われる。まるで「どこでもドア」を通り抜けるように、短歌雑誌の前に新しい世界が開けようとしているのか。

2021年6月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです
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