『核のプロパガンダ』
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『核のプロパガンダ 「原子力」はどのように展示されてきたか』暮沢剛巳著
[レビュアー] 小泉悠(安全保障研究者・東京大准教授)
万博、PR館 展示の歴史
タイトルと著者の肩書きとのギャップに、目を惹(ひ)かれた。『核のプロパガンダ』というタイトルから想像される著者像は、国際政治学であるとか、社会学の専門家であろう。だが、本書の奥付に記されたプロフィールには「東京工科大学デザイン学部教授。専門は美術・デザイン研究」とある。なんとも意外な取り合わせだ。
では、美術とデザインの専門家は核のプロパガンダとどう向き合うのか。ページをめくっていくと、その主な結節点は「展示」であることが分かる。万博、博物館・記念館、電力会社のPR館などが核兵器や原子力発電をどのように扱ってきたのか。これが本書の中核となるテーマだ。
これらの展示を「プロパガンダ」と位置付けることからも明らかなように、著者のスタンスは常に批判的・懐疑的である。特に日本の原子力政策については非常に手厳しい。
ただ、本書は、単に政府による「プロパガンダ」的展示を批判することに終始していない。例えば原子力発電を未来のエネルギーとして推進する展示手法はどのようにして生まれてきたのか、それを国民はどう受け止めたのかなど、「核の戦後社会史」とでもいうべき内容に仕上がっているのが本書の面白いところである。
特に興味深いのは岡本太郎の原子力観だ。「明日の神話」で核の惨禍を描いた岡本は「反核の人」と見られがちだが、実は核兵器と原子力発電を切り分けて考えており、後者に対してはかなり好意的であった。しかも、そのような姿勢が「太陽の塔」の背後に描かれた黒い太陽に反映されている、という論考は刺激に富む。
もう一つ面白かったのは、もし「日本の原爆開発」展を開催するならこうする、という架空の展示構想が示された第五章である。なるほど展示とはこうして作られるのか、という素直な驚きと学びを得た。この展示、実際にどこかで開催できないものだろうか。(平凡社、3740円)