AIで「経理の仕事がなくなる」は本当か? 税理士に聞いた、経理業務の未来 『この1冊ですべてわかる 経理業務の基本』試し読み

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photo by Ray Reyes/Unsplash

「いつの時代においても、経理担当者は、経営者のよきパートナーとして必要とされる人材である」──海外のビジネス事情にも詳しい税理士の小島孝子さんは、デジタル化・AI導入によっても経理担当者の重要性は変わらない、と言い切ります。それはなぜなのか、そして、これからの経理担当者に求められるスキルとはどのようなものなのか? 今回は、それらの答えが記された小島さんの著書『この1冊ですべてわかる 経理業務の基本』より、「はじめに」を公開します。

AIで経理の仕事がなくなる!?

AIの発達により、経理の仕事がなくなるといわれるようになってから、早8年が過ぎようとしています。

確かに私たちの日常は、スマートフォンの登場からわずか10年程度で、コミュニケーション手段だけでなく、仕事の環境や日々の生活の在り方など、その前とは比較にならないほどの大きな進化を遂げたといっても過言ではありません。

このように、デジタルシフトしていく社会の中で、「AI化された世界で経理は本当になくなるのか?」という問題に対する答えを探すべく、私がIT大国エストニアに出かけたのは2018年のことです。

さらにデジタルシフトする未来

確かに日本における経理環境は、その当時、まだ手作業に頼る部分が多く、そのために経理の仕事に対して多くの人が将来性を感じず、取り憑かれたかのように「AIで仕事がなくなる」と恐れていました。

そんな矢先に起きたのが新型コロナウィルスによる災害でした。

この未曽有の災害において、唯一の希望が、デジタルシフトの必要性を多くの人が認識したことであることは間違いありません。この流れは止まることはなく、経理の作業はさらにデジタルへシフトしていくことでしょう。

業務は時代とともに変化する

しかし、これは単に時代に合わせた業務内容の変化にしかすぎません。

かつて、経理業務は人の手で紙に記帳し、そろばんで集計するなどして行われていた作業でした。連結決算は、模造紙のような紙に書き写した各社の財務諸表を一致させる技術であり、その技術を持った職人がいたことは、今となっては笑い話に聞こえるのかもしれません。

しかし、経理業務がコンピュータ化され、それに伴い、仕訳を入力する技術が当たり前になると、試算表を作る仕事よりも読む仕事のほうが、比重が高くなりました。これと同じことが起こる時代に、たまたま私たちが直面しているにすぎないのです。

AIが発達した未来の経理

それでは、AIが発達した未来において、私たちはどんな仕事をしているのでしょうか? その答えは、おそらく、「現実にある仕事を粛々とこなすこと」になるでしょう。

ここまで読んで「そんなー!!」とがっかりされた方もいるかと思いますが、もう少しお付き合いください。

AIのような技術の進化は、人が時間を捻出できず、足りない時間を埋めるために発展していくものです。

これまでのように単一の業務で利益が出ない企業は多角化していくし、国内での販路がなくなれば、どんな小さな企業でも海外へ進出していく……かつては難しかったこうした転換も、デジタルの力で可能となる、そんな時代にもうなっているのです。

そうなると、これまでと同じ知識では対応できません。新しい時代に対応していくには、その前の時代と同じように、より定型化できる作業の効率を上げ、新たな対策を練る時間を捻出するしかないのです。

デジタルツールを味方に

デジタル化社会の象徴として伝えられるエストニアでは、会計業務に携わる人口は、増加傾向にあるといわれています。これは、小国ながらも、EUを通じてITベンチャー企業の海外展開を国が後押しする国家戦略を持っているため、多くのベンチャー企業で会計がわかる人材がこれまで以上に求められているからです。

つまり、いつの時代においても経理担当者は経営者のよきパートナーとして必要とされる人材なのです。

しかし、必要な知識ややるべき業務は、時代とともに進化します。こうした前提を踏まえ、デジタルツールを味方に、自分も進化していけなければ、仕事がなくなる未来しか見えないということを、私たちは肝に銘じておかなければなりません。

この本の執筆に当たって

この本の執筆のご依頼を受けたのは、新型コロナウィルスによる世界的災害が巻き起こった真っ只中でした。こうした時代背景のなかで、経理業務に日々奮闘する現職の経理職のみなさんや、経理職を目指すみなさんに、今何をお伝えすべきなのか。

その答えは、いつの時代も変わらない、会社の仕組みや会計、法律に関する知識など、経理処理を自身で判断できるための基本的な知識であるのではないかと考えました。

そのため、本書は、一般的な経理の本に比べ、詳細な経理処理の内容よりも、こうした背景にある知識に重点を置いて執筆しています。

また、デジタル化時代における新しい経理処理やセキュリティに関する知識なども、幅広く取り上げています。

なお、簿記で学習した知識がすべて実務に直接結びつくわけではないように、経理処理も業種や会社の規模、自身の経験や担当業務などにより、必要な知識が異なります。そのため本書を、日常業務の際に、デスクに置いて、必要に応じて辞書的に参照していただくことをお勧めします。

経理は今や人材難と言われる時代を迎えています。しかし、個々の企業がグローバル化、多角化していく中で、この先、経理のプロフェッショナルはより不足していくでしょう。

そうした環境の中で、この本が、経理にかかわる多くの方にとって、希望を持って日々の業務に当たるミライへの応援となるものであればと、心から願っております。

小島 孝子(こじま たかこ)
神奈川県生まれ、税理士。ミライコンサル株式会社代表取締役。1999年早稲田大学社会科学部卒業、2019年青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科修了。大学在学中から地元会計事務所に勤務した後、都内税理士法人、大手税理士受験対策校講師、一般経理職に従事したのち2010年に小島孝子税理士事務所を設立。税務や経理業務に関する執筆やセミナー講師の傍ら、街歩き、旅好きが高じて日本全国さまざまな地域にクライアントを持つ、自称、「旅する税理士」。著書に、『3年後に必ず差が出る20代から知っておきたい経理の教科書』(翔泳社)、『税理士試験計算プラクティス 消費税法:出題パターン別解法の極意』(中央経済社)、『簿記試験合格者のためのはじめての経理実務』(税務経理協会)などがある。

小島孝子(税理士)

日本実業出版社
2022年1月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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