NHK「あさイチ」でおなじみの「博多大吉」が産婦人科医と生理について語り尽くした一冊 『ぼくたちが知っておきたい生理のこと』試し読み

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 男性で、女性の生理について公の場で発言できる人はそう多くない。家族や恋人に頼まれたとしても、ナプキンの購入をためらう人のほうが多数派かもしれません。

 そんな中、男性ながら生理をテーマにした本を出したのが、お笑いコンビ「博多華丸・大吉」の大吉さんだ。『ぼくたちが知っておきたい生理のこと』(辰巳出版)では、産婦人科医の高尾美穂さんと対談する形で、生理について大いに語っています。

 大吉さんの生理への思いから、生理のメカニズムやSNSに寄せられた女性たちの声、そして閉経に至るまで、生理にまつわるあらゆることが書かれた本書の冒頭を特別公開します。

 ***

第1章 ぼくたちと生理の微妙な距離感

多くの女性は10 代前半から50代までの長い期間を、生理とともに過ごします。自身の身体に起きることとして、またはそれによって生活や仕事、学業に影響が及ぶものとして、妊娠につながるものとして、意識したことがない人はいないといってもいいでしょう。
では、男性にとっては? 自分の身体に起こることではない。それはたしかですが、決して縁遠いものではありません。ともに暮らす家族が、一緒に働く上司や同僚、部下が、親しく過ごす友人が毎月経験しているものなのですから。
女性に生理が「ある」こと自体を知らないという人はあまりいないでしょう。けれど日常的に意識することなく過ごしてきた人が多いのではないでしょうか。それは「なぜ」なのか。また知ろうと思ったときに「なに」からはじめればいいのか。
生理を知りたい博多大吉×生理を知ってほしい産婦人科医・高尾美穂の対話、はじまります。

生理は「身近にあるのにわからない」もの

大吉 ぼくは長いあいだ、生理のことは「まったく知らなかった」と断言していいでしょうね。といっても、女性に生理という現象があることは当然、10代のときから知識として持っていました。でも、それ以上の理解がむずかしいんです。生理のとき身体のなかで具体的にどんなことが起きているのか、女性はそれをどう感じているのか……考えたこともなかったです。
 ぼくが育った家庭では母と姉がいて、本当なら生理がものすごく身近だったはずなんです。ナプキンが目に入ったこともあります。でも何かのときに母から「知らなくていい」と言われたんですよね。姉も、弟に生理のことを知ってほしいとは別に思ってなかったんじゃないかなぁ。子どもながら「ふれてはいけない」空気を察知していました。

高尾 男性にとって生理がどれだけ身近かを考えるとき、家族構成が大きく影響してくると思います。息子しかいない家庭では、ナプキンなどの生理用品をほかの家族の目にふれないよう気をつけているお母さんが少なくないし、自分だけでなく娘にもそう教えることがあるようです。
 では女性が多い家庭では生理がオープンかというとそんなことはなく、女性同士は話すけど、そこは男性が入れない領域になっているのだとか。
 そうなるともし関心を持ったとしても、男性からその話題を持ち出すのはむずかしいでしょう。だから男性にとって生理は、「あることはわかっているけど、どういうものかはまるで見えない」ものになる。大吉さんのように「こっちからふれてはいけないもの」という感覚になっても不思議じゃないですよね。

大吉 そうだと思います、ぼくら世代はそれが多数派だと思って間違いないでしょう。

高尾 男性にとっての生理は、「血が出る日がある」という感じですよね?

大吉 はい、「生理=血」ですね。

高尾 そこから先を知っている男性は少ないと感じています。
 私が医学部生のとき、同級生の男子学生から「生理って1日で終わるんだよね」と言われて、ものすごい衝撃を受けました。いまもはっきり覚えているくらい。医師になろうという人でこんな感じかぁ、と。授業では産婦人科の領域についても習うので、彼もひと通り勉強はしていたはずなのですが……。

大吉 こう言ってはなんですが、彼のことがわかる気もします。さすがに1日で終わるとまでは思っていないにしても、「じゃあ何日あるか知ってる?」と聞かれると、言葉に詰まりますね。

メディアに女性が増え、生理の話題も増えた

高尾 成長すると家庭だけでなく、それ以外の場でどれぐらい女性と関わってきたかによっても、生理についての情報量はだいぶ変わってきますよね。男子校に通っていた男性のなかには、まったく知識がないという人もめずらしくないようです。私は小学校から大学まで講義に行くのですが、ある有名大学の運動部から、女性の身体や生理現象について講義してほしいと依頼が来たことがあります。なぜそんな内容の講義を聞かせたいと思ったのかを指導者に尋ねてみたところ、その大学は男女比が大きいうえに、中高一貫の男子校の出身者が多い。そのうえ体育会系の運動部に入れば、4年間で女性と接する機会はとても少ないのだそうです。
 でも、彼らが社会に出てリーダー的立場になったとき、もちろん女性とも一緒に働くことになりますよね。だから学生のうちに最低限のことは知っておいてほしい、という意図だったようです。

大吉 以前ならそのまま男性ばかりの職場にいく、というのもめずらしくなかったで
しょうけれど、もうそういう時代は過去になりましたよね。
 ぼくは芸人を32年間やっていますが、この業界も変わったと感じます。90年代の福岡ローカル局は、現場にいくと95%が男性でした。そのときはそれが当たり前だと思っていましたが、いまふり返ると、女性が働きやすいってことはなかったと思いますよ。きつかったでしょう。会議だ収録だで、トイレに行く時間もろくになかったんじゃないかな。トイレは各自で行きたいときに行くというふうにはなっていたけど、現場はぼくら男性のスケジュールに合わせてずっと回っているから、思うように行けなくて困ったこともあったでしょうね。

高尾 いまはテレビの現場も、女性が多いですよね?

大吉 全体的に増えていますが、特に「あさイチ」では約半数が女性スタッフです。そうなると、まず企画の内容が変わりますよね、20代、30代の女性が採り上げたいと思う企画があがってくる。「生理」も、そのひとつなんだと思います。これまでオジサンたちが会議室で作っていたものと、同じであるわけがないですよ。

高尾 私が出演依頼をいただくときも、どんなきっかけでそのテーマを特集しようと思ったかをお話ししてくださるディレクターさんが多いです。ご自身の経験から企画を立てたというだけあって、想いが強い。しかも、それが女性だけとはかぎらないんです。若い男性ディレクターさんが「母がずっとつらそうだったのが気になっていた」とおっしゃっていたこともあります。女性の比率が上がっただけでなく、そうしたところに目を向けられる世代の男性が社会に増えてきたのかな。そう感じられるのは、うれしいことですね。
 テレビで「生理」という言葉を聞くようになったのって、ここ5年くらいだと思いますけど、これは産婦人科医にとって本当にありがたいことです。生理について真正面から話していいんだ、と風向きが変わった気がするから。「隠さなくてもいい」「語っちゃいけないことじゃない」と多くの人が考えるようになってきたと肌で感じます。女性誌でも、以前は生理の特集が組まれるのは月に1冊あるかないかという感じだったのが、いまは女性週刊誌、ファッション誌問わず毎週のように生理について大小の企画が載っていますし、私もよく取材依頼をいただきます。
 そのあとを追うようにして、ここ1年半ぐらいは更年期についても、前向きに語ろうという姿勢を多くの人から感じます。

まずは「ざっくりと知る」ところから

大吉 ぼくの話をすると、生理中の痛みやPMS(月経前症候群)のしんどさ、それから生理のときに女性はどんな気持ちになっているのか、何を困っているのかを教えてもらったことで、「自分もちゃんと知ったほうがいい」という気持ちになったんです。生理前の不調も合わせると月に10日ぐらいしか元気なときがない女性も少なくないそうですね。これには本当に響きました。男性も向き合わないといけない話だぞ、って。

高尾 生理がどんなメカニズムで起きるかっていうのも大事は大事なんだけど、そこがスタートじゃないほうがいい場合もあるってことですよね。

大吉 よくある、子宮と卵巣がこうあって、ここから排卵されて……っていうのからはじまると、学校の授業みたいに感じてしまうのかなぁ。生物の授業で「植物の細胞壁はこんなふうになってます」ってありましたけど、それと同じで“教科書に書いてあること”でしかなくなるんです。
 それよりも、これだけ困っている人がいるんだと知ったり、それがなんでそうなるのかを高尾先生のような専門家から聞いたりするほうが、ぼくは入っていきやすかったです。生理の仕組みを知っていても、女性がそれでどう感じているかを知らなければ、こちらからたいしたことはできないと思うんですよね。

高尾 重箱の隅をつつくような「身体の仕組みとは」というレクチャーじゃなくて、まずは「ざっくり知る」がいいと思うんですよ。男性が生理について考えるとき、自分の身に起きることじゃないので想像力を働かせないといけないところがある。ざっくり知ることで、想像するための材料を蓄えていくイメージですね。

落とし穴を埋めることで「公平」な社会に

高尾 男性も生理について知ろう、という話しになると、SNSなどで「最近は女性ばかりが健康支援をしてもらっているじゃないか」という声があがります。一部の人たちの目には、女性だけが優遇されているように見えるのだと感じています。
 ここでひとつ知っておいてほしいのが、「平等」と「公平」は、言葉だけ聞くととても似ていますが、異なるものだということです。
 たとえば、いま野球の試合が行われているけれど、私たちの目の前には高い壁があって見えない。そこでみんなに高さ20センチの足台が配られます。これが「平等」ですね。長身の大吉さんなら、その足台に乗れば壁の高さをゆうに超えるので試合を見ることができます。でも私のように小柄だと、20センチの足台に乗ってなお、壁の高さに阻まれます。

大吉 高尾先生には、50センチぐらいの足台があったほうがいいんじゃないですか。

高尾 そうそう、大吉さんには20センチ、私には50センチの足台が配られたら、私たちふたりともが壁の向こうの景色を見ることができる。これが「公平」なんです。
同じ高さの足台じゃないとズルイと思われる人もいるかもしれませんが、ここでの目標は「壁の向こうの試合を見ること」なので、いま見えていない人も見える、という公平な状態を達成するにはどうすればいいか、ということです。
生理は、女性特有の健康課題です。これから詳しくお話ししますが、生理痛をはじめとする月経困難症、過多月経、PMS、PMDD(月経前不快気分障害)といった生理にまつわる不調は、女性にとって“落とし穴”のようなもの。男性と同じ道を歩いていても、女性の行く道にはあちこちに落とし穴があって、そこに落ちてしまう人がいます。じゃあ公平にするにはどうすればいいのか? 答えは、「落とし穴を埋める」です。それによって女性が男性と同じように歩けるようになることは優遇ではありませんし、男性が何か損をすることもありません。
 男性の行く道にも、どこにどんな落とし穴があるかわからない。体調やメンタルを崩すことは誰にでもあります。そんなときに穴にはまって抜け出せなくなるような社会ではなく、穴があってもそこにはまらないよう配慮されている社会だと、みんな安心して生きていけますよね。男性が生理について知ることも、こうした公平な社会への一歩なのだと思います。

つづきは書籍でお楽しみください

博多大吉、産婦人科医高尾美穂

辰巳出版
2023年3月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

辰巳出版

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