それは90年前に始まった
旅先の駅で記念スタンプを押すのが楽しみという方は多いだろう。また、近年はガンダムやポケモンなどのキャラクター物を中心に期間限定のスタンプラリーも人気を呼んでいる。
こうした記念スタンプのルーツはどこにあるか、ご存知だろうか。
鉄道マニアで関連の著作が多い田中比呂之さんは、こう語る。
「実は戦前にもスタンプブームがありました。その発端は90年前、北陸本線福井駅の駅スタンプ設置です(1)・佐藤義昭氏所蔵。
1931年4月18日、福井駅の駅長・富永貫一さんが旅行記念のスタンプを設置すると発表しました。駅員との雑談から発案したものだったようです」
この試みはまず大阪朝日新聞の福井版で紹介されるのだが、おそらく全国的に知られるようになったのは雑誌「旅」の紹介記事(同年6月号)だという。
「記事は短いのですが、『福井駅長の熱心振り』と題して、そのアイディアを賞賛しています。さらに半年後には、スタンプを毎日30人が押しに来ているとか、団体客が来ることもあるといった、その後の話も記事にしています。
そして同誌は、翌年からスタンプブームを煽るかのように本格的な紹介を始め、1933年からは『駅スタムプ展覧会』という連載が始まるのです」
田中さんが「旅」で紹介された駅スタンプを分類し、解説を加えた労作が『解説つき 戦前の印影コレクション 駅スタンプ大図鑑』(世界文化社)である。
前述の福井駅はもちろん日本全国、さらには樺太、台湾、朝鮮、満州の駅スタンプまで網羅したこの1冊から3回にわたって、興味深いスタンプの数々をご紹介してみよう。なお、それぞれについている色は適当なものではなく、当時実際に駅で用いられていた色に基づいている。
1回目では、関東近郊の駅を巡ってみよう(以下、スタンプはいずれも『駅スタンプ大図鑑』より)。
戦前なのにナゼ?“ミニスカ女性”が描かれた渋谷駅
まずは東京駅を見てみよう(2)。
東京駅は二重橋と東京駅舎が描かれており、現在のスタンプとしても通用する図柄だと言えるのではないか。
田町駅は芝浦埠頭やお台場のイラストがある他、注目点は輪郭が「ボールとバット」を模している点だろう(3)。
なぜ田町が野球か。
これは慶應義塾大学の所在地ということが関係している。今も昔も慶応の野球部への関心は高かったということだろうか。
意表をつくのは渋谷駅(4)。短めのスカートをはいた女性がいるので、当時もギャルがいたのかと錯覚しそうなのだが、これは「婦人ゴルファー」。駒沢ゴルフ場があったことからの登場らしい。
渋谷は別パターンもあって、こちらは忠犬ハチ公の他、兵隊が行進している様が描かれている(5)。朝ドラ「らんまん」を見ていた方ならピンと来るはず、当時は「代々木練兵場」があったからだ。
出身地のスタンプを見てみるのがおススメ
-
- 駅スタンプ大図鑑
- 価格:3,190円(税込)
神奈川県に移動してみよう。
片瀬江ノ島は浮き輪の中に江の島、桟橋、竜宮城風の駅舎(6)。こちらも現在のスタンプと言われてもあまり違和感はないデザインである。
同様に鎌倉も大仏、鶴岡八幡宮、由比ヶ浜の水着女性なので今でも通用する要素ばかり(7)。
埼玉県、千葉県、茨城県、群馬県、栃木県についてはそれぞれの県庁所在地のスタンプを別途掲載したので、興味のある方はご確認していただきたい。
同書に収録されている駅スタンプは何と約1400点にものぼる。どう見ていけば良いか迷うところだが、
「やはりご自分の出身地やお住まいから見てみるのが良いのではないでしょうか。空前のブームだったので、かなり多くの駅が作っています。こんなに変わったのか、とかこんなものがあったのか、とかいろんな発見があるかと思います」
(田中さん)。
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