「しっかりしなさい!」の励ましは子どもをダメにすることも…典型的ないい子に言ってはいけない絶対NGな発言

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励ますつもりが不登校に…(写真はイメージ)

 子どもの頃、親に「しっかりしなさい」と言われた経験はないでしょうか? 一方で、いま子育て中の方は、子どもを励ますつもりで「しっかりしなさい」と口にしたことがあるのではないでしょうか?

 ありきたりな言葉のように思われがちですが、子どもの脳に悪影響を与えることも……。

 本稿では10月に小児科専門医の成田奈緒子さんと公認心理師の上岡勇二さんが刊行した『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(SBクリエイティブ)から、事例として小学3年生のオサムのエピソードを交え、科学的に正しい言葉がけとその理由を紹介します。

 ***

NG「もっとしっかりしなさい!」
OK「不安なんだね。何が不安か教えて」

■事例 オサム(小3)

〈明日はサッカーの試合。「ちゃんとできるかな?」とオサムは不安でいっぱいです。心配性なので、肝心なシーンになるといつもプレッシャーに耐えられなくなってしまいます。
 もっと堂々と自信を持ってほしいと思っているのが父親。オサムが弱音を吐く度に、「もっとしっかりしなさい!」と励ましています。
 そんなある朝――。「めまいがする」とベッドから起きられなくなったオサム。病院に行くと、起立性調節障害と診断されてしまいました。診断を受けてから1カ月たった今も、まだ学校に行けていません。〉

■不安の強い子に「しっかりしなさい」はNG

 自身がスポーツなどの部活動を一生懸命やってきた、いわゆる「体育会系」の親御さんほど、「もっとしっかりしなさい!」と言いがちです。自分が頑張ってきたからこそ、子どもにも「あなたにも越えられるはず」と押しつけてしまうのでしょう。

 オサムは不安傾向が強く、「お父さんの言うように頑張らなくちゃ」と思ってしまう、典型的な「いい子」です。

 起立性調節障害は「いい子」にも多い病気といわれていますが、ある朝、突然起きられなくなるわけではありません。実は、発症する前から徐々に、「気分」「からだの反応」「行動」「考え」にストレス反応が起こり始めています。しかし、脳が未発達な子どもはこのサインに気づきにくく、気づいてもそれを言語化する脳がまだ十分に育っていません。そのため、ある朝、突然起きられなくなるように見えるのです。

 オサムのような不安の強い子どもに対して、「もっとしっかりしなさい!」「もっと頑張れ!」などと言うことは絶対にNGです。「不安なんだね」と、まずは子どもの気持ちをそのまま受け取り、何が不安なのかを聞いてあげましょう。

 子どもを注意深く観察して、「気分」「からだの反応」「行動」にかなりのストレスが表れていることがわかったら、無理をさせないように休ませてあげましょう。

「体育会系」の親御さんは、「からだが覚えるまで練習するんだ。そうすれば不安は消える!」といったような、「正論の根性論」をよく言うのですが、不安の強い子どもは、「自分にはそんなことできない」とより一層自信をなくしてしまいます。

 本当は試合前に緊張したことなどなかったとしても、「お父さんも子どもの頃は、サッカーの試合前は緊張して足が震えちゃってさ。でもさ、頑張って練習したら、自然にからだが動いてくれたよ」などと、「子どもと自分は一緒である」という体験を伝えてあげましょう。一見したところ完璧に見える父親が弱い部分を見せることで、子どもの不安は和らぎます。

■「ネガティブ言葉」を「ポジティブ言葉」に変換する

 ところで、近年の脳科学研究では、同じことでも「ポジティブに捉えやすい脳」と「ネガティブに捉えやすい脳」では、前頭葉の反応が異なることがわかってきました。

 その差異は免疫機能とも関連していて、ネガティブな脳の方がインフルエンザワクチンの免疫がつきにくいという報告もあるほどです。

 私たちも、問題を抱えて来られる家族との関わりの中で、ポジティブな考え方を持っている親御さんの方が、トラブル改善の経過が良好であることを実感しています。

 子どもも、大人も、物事をポジティブに捉える習慣をつけるために、「おかげさまで」という言葉を口癖にすることをおすすめします。

「おかげさまで」という言葉を日頃から意識的に口にし続けると、だんだん、「~のおかげでいい結果になった」と考えられるようになってきます。もしトラブルが起こったとしても、「おかげさまで、いいこともあった」「おかげさまで、大事なことに気づくことができた」とポジティブに脳が捉えるようになります。

 また、親は、「子どものよいところ」を探す練習もするといいでしょう。子どもを見ていてネガティブな言葉が思い浮かんでしまったら、それをポジティブな言葉に変換します。たとえば、「忍耐力がないなあ」と思ったら「切り替えが早いね」というような具合です。

 さらに、同じ言葉でも、「言い方」によって伝わり方がポジティブにもなり、ネガティブにもなります。にっこりとした表情で高いトーンの声で話すのと、暗い表情で低いトーンの声で話すのでは、同じ内容でも全く印象が変わります。ポジティブな伝え方をするには、表情や声のトーン、話す速さを工夫することも大切です。

 親が伝え方のバリエーションをたくさん見せていると、子どもも表情が豊かになり、コミュニケーションがうまくなります。

 子どもは、大人の言葉や振る舞いをお手本にして育ちます。まずは大人から、ポジティブな振る舞いや言葉遣いを心がけましょう。

 また、子どもは不安な気持ちを和らげるために、大人は日々のストレスを解消するために、リラクゼーションのストックを持つこともおすすめします。

 特に親は、育児などのストレスがたまりすぎると、それを子どもの前で爆発させてしまうことになりかねません。自分にとってストレス解消になるリラクゼーションは何でしょうか。「友達とランチをする」「映画館で映画を観る」「お風呂に入る」「アロマをたく」「ジョギングをする」……自分の脳が楽しくなる、癒されることは何かについて考えてみましょう。

 誰かと一緒にすること、一人でもできること、外ですること、その場でできること、お金がかかること、無料でできることなど、リラクゼーションにもさまざまなバリエーションがあります。状況や気分に合わせて方法を選べるようにストックを持ちましょう。

 さらに親は、リラクゼーションの方法を子どもにも伝えることが大切です。子どもが自分自身でストレスに対応できるように育てていきましょう。

成田奈緒子(なりた・なおこ)
小児科医・医学博士。公認心理師。子育て科学アクシス代表・文教大学教育学部教授。 1987年神戸大学卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。2005年より現職。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)、『子どもにいいこと大全』(主婦の友社)など多数。

上岡勇二(かみおか・ゆうじ)
臨床心理士・公認心理師。子育て科学アクシススタッフ。1999年茨城大学大学院教育学研究科を修了したのち、適応指導教室、児童相談所、病弱特別支援学校院内学級、茨城県発達障害者支援センターで、家族支援に携わる。著作に、『改訂新装版 子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング 育てにくい子ほど良く伸びる』(共著、合同出版)、『子どもが幸せになる「正しい睡眠」』(共著、産業編集センター)、『ストレスは集中力を高める」(芽ばえ社)。

「子育て科学アクシス」
2014年に、成田奈緒子と上岡勇二が中心となって立ち上げ。医療、心理、教育、福祉の専門家が集まり、「ペアレンティング・トレーニング」の理論を基にした親支援、家族支援を行っている。いわゆる発達障害、不登校、引きこもりなど、子育てに悩みや不安を抱える親たちや学びたい方々が数多く訪れている。

SBクリエイティブ
2024年1月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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