なぜ潜水艦は「究極のステルス兵器」といわれるのか?

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電波が届かない海中で活動する潜水艦は究極のステルス兵器で、「海の忍者」ともいわれます。世界の海軍は高性能な潜水艦を「のどから手が出る」ほど欲しがりますが、潜水艦の建造には高度な技術が必要なので、自前で調達できる国は限られており、日本や米国は、その限られた国の1つです。世界の軍隊を精力的に取材しているフォト・ジャーナリストの柿谷哲也さんは、著書『知られざる潜水艦の秘密』の中で、米国や日本の潜水艦事情を、米海軍や海上自衛隊を長年取材して得られた貴重な写真とともに解説しています。その柿谷哲也さんに、「知られざる潜水艦の秘密」を語っていただきました。

潜水艦の内部はどんな雰囲気なのか?

 私はこれまで、数多くの部隊や艦艇、航空機を取材してきました。国防という仕事の現場はどこを見ても誇り高い立派な職場であることを実感します。そして、ときどき取材中に「もし次の人生を選ぶなら、ここ」と直感する部隊があります。それが潜水艦部隊です。

 潜水艦を追い詰める航空部隊、潜水艦を救助する潜水艦救難艦も魅力です。潜水艦部隊のためにコツコツと海洋データを集める部隊や、潜水艦にメッセージを送る通信部隊もやりがいのある職場でしょう(秘匿性が高く許可が下りないため、取材したことはありませんが)。

 われわれ国民から見ると、潜水艦の作戦にまつわるすべてが、「国防の最前線という重圧のなか、深い海で秘密の任務を粛々とこなす男の世界」に見えます。潜水艦をテーマにした映画や小説が多いのも、そうした理由があるからでしょう。「映画の『レッド・オクトーバーを追え』、あの雰囲気は本当ですよ」と潜水艦の乗員が言います。取材で乗艦した潜水艦で、ハッチが閉められ、艦長の「潜航せよ!」の号令で乗員の目の色が変わったときも、「やっぱり、映画と同じだ」と感じました。

潜水艦は水上艦の「天敵」

 潜水艦は実におもしろい兵器です。人間が生存できない水中という厳しい環境を、科学の力を使って味方につけています。水圧に耐える船体構造、乗員の生命にかかわる空気の循環、水中での限られた通信方法など、水上艦艇とはまったく異なる技術が必要になり、そのいずれに不具合があっても致命的であるため、高度な科学技術や安全性、バックアップ体制が必要になります。

 そのすべてがそろった高性能の潜水艦に優秀な乗員が乗艦し、そして1隻でも多くの潜水艦を効率的に運用できてこそ、潜水艦の本質的な役割が発揮できます。米海軍のイージス駆逐艦艦長は、「演習海域に国籍不明の潜水艦がいれば、その海域での演習は計画変更します」と言いました。水上艦にとって潜水艦はそれほど嫌な存在なのです。

 このように軍艦の頂点にあるともいえる潜水艦ですが、強敵も存在します。それは潜水艦からの探知が及ばない空中からの魚雷攻撃です。空母や駆逐艦が対潜ヘリコプターを何機も搭載するのは、潜水艦に有効な、強力な攻撃兵器だからです。水上艦は潜水艦に弱く、潜水艦は航空機に弱い、その航空機は対空ミサイルに弱い──そのため、潜水艦から対空ミサイルで航空機を狙える技術が確立されています。

 しかしこれは、撃ったら潜水艦の位置が特定されてしまう「両刃の剣」です。1発で仕留める覚悟で対空ミサイルを撃つか、音を立てずに海底に潜むか──艦長は全責任を負って決断します。

潜水艦の乗員は体力も精神力も一流

 潜水艦の性能を最も左右するのは、艦長以下、乗り込む乗員の資質といっても過言ではないでしょう。何日間も狭い艦内で乗員を統率し、国家の重大な命令を背負う艦長の責任感や、仲間と調和できる乗員の資質こそが潜水艦を強くします。

 水上艦の乗員は急病や怪我の際、ヘリコプターで陸上まで移送できますが、潜水艦ではそうはいきません。乗員は虫歯でさえ許されないほど、日々の健康管理に気を遣わなければなりません。

 さらに国家の最高機密を扱う責任感も兼ね備える必要があります。乗員は家を出るとき、妻にさえ帰ってくる日を伝えないといいます。妻は夫が持っていく下着の枚数でそれを察するそうです。若い乗員からは「彼女に仕事内容を知らせることができないから、帰港のたびに振られる。メンタルが強くなった」という言葉をよく聞きます。一般企業の人事部であればうらやましく思うほどの逸材が潜水艦の艦内にはそろっているのです。最先端の科学の結晶であり、国の安全保障の最前線である潜水艦に乗り込む乗員は、最高の逸材の集団なのです。

 拙著『知られざる潜水艦の秘密』で紹介しているのは、機密が多い潜水艦の活動のごく一部です。しかしそこから、任務の一端や職場の魅力を想像させるヒントが見つかれば、筆者としては最高の幸せです。

SBCrOnline
2017年3月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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